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7647論文において提案された電子通貨がいわゆるビットコイン(Bitcoin)であり、ビットコインにおける「電子コイン」とは「連続するデジタル署名のチェーン」と定義されている。つまり「電子コインが発行されてから現在までのコインの支払いの履歴記録」そのものがコインであり、この記録の最後に記録されているアドレスが現在のコインの所有者となる。コインの支払いは記録の最後に新しい所有者を付け加えることで行われるが、この手続きは、複数の暗号技術を駆使して実現されており、第三者による偽造や改ざんは困難である。データの改ざんを防ぐための技術は電子署名としてビットコインよりも前から知られていた。問題は、コインの所有者が複数のアドレスに対して支払いを行う、いわゆる二重支払い(double spending)が可能なことであり、ブロックチェーンは二重支払い問題の現実解として提案された。二重支払いは結果として署名のチェーンの分岐を生成するが、ブロックチェーンではプルーフオブワーク(Proof Of Work)という仕組みを用いることで、分岐したチェーンの一方のみを正当なものであると「ネットワークが合意する」。「分散環境において、各々の通信主体が意図的であるかどうかにかかわらず間違った情報を伝達する可能性がある場合でも、ネットワーク全体として正しい合意を形成できるか」という問題はビザンチン将軍問題(Byzantine Generals Problem)と呼ばれ、1982年にLeslie Lamportらによって定式化された3。ブロックチェーンはビザンチン将軍問題に対する一つの現実解を提示しているともいえる。支払いへの攻撃前述のとおり、ブロックチェーンはそれぞれの支払いの背景にある意図を考慮しない。例えば、ある商品の代金を、宛先が別のアドレスに書き換えられているのに気が付かずに送金してしまったとしても、ブロックチェーン上では正当な支払いとみなされる。意図に反して使用させられたコインを「これはそもそも自分のものだ」と主張して他の送金に再利用しても、ネットワークからは二重支払いとみなされ拒絶されてしまう。一般に、ネットワーク上の手続き(以下、プロトコル)に欠陥がないことを証明することは非常に困難である。例えばRoger NeedhamとMichael Schroederによって1978年に発表されたNeedham-Schroeder公開鍵プロトコル4は、「安全でないネットワーク上で二人の参加者が相互に認証する」ための手続きを規定する。このプロトコルは発表以来17年間安全であると信じられていたが、1995年にGavin Loweによってその脆弱性が指摘された5。二人の参加者のうち一人が「うっかり」侵略者に話しかけた結果、二人の秘密が侵略者に漏洩してしまう可能性が生じるのである。複数のビジネスロジックを組み合わせて新たなビジネスを生み出す作業においては、このような「うっかり」した状況を作り出す余地がないことを確認しなくてはならない。ビジネスロジックの統合複数の異なるビジネスロジックをシームレスに統合し、企業間のコラボレーションを促進しようとする動きは2000年台前半から盛んに行われてきた。代表的なものに、標準化団体World Wide Web Consortium(W3C,https://www.w3.org/)によるWeb Services Choreography、OASIS(https://www.oasis-open.org/)によるWS-BPELなどが知られている。旅行業は企業間コラボレーションの代表例といってもよい。旅行は宿泊施設、交通手段、観光施設など複数の「旅行素材」を組み合わせたサービスであり、また、インターネットを介してユーザからの予約を受け付ける業態(Online Travel Agency)はすでに広く利用されている。経済産業省の「平成29年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備」6によれば、「BtoC-ECのサービス系分野において、最も市場規模が大きいのは旅行サービスであり、2017年のBtoC-ECの市場規模は3兆3,742億円、前年比で11.0%の伸びとなっている」とある。今後、ビジネスのオンライン統合化の動きは他の分野に広がっていくものと期待される。このように、一部の先進的な業界においてはビジネスの統合化が進んでいるが、個人ベースで信用できない相手と取引をするのはとても危険である。例えば、Aがオンラインショップを利用して品物を販売すること考えてみよう。販売者Aと購入予定者Bはお互いに面識がなく、お互いに相手を信用できないものとする。ここで、Aが先に品物を送付すれば、Bが品物を受け取り代金は送金しないリスクが発生する。逆に、Bが代金を先払いした場合には、Aが代金を受け取り品物は送付しないリスクが発生する。このため、「代引き」など適当なリスク回避手段が存在しない場合には、AとBの間で取引が開始されることはない。この問題の解として、文献7に安全な遠隔取引(Safe Remote Purchase)アルゴリズムが公開されている。以下、簡単に説明しよう。

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