cuc_V&V_第52号
10/64

8を持った車を運転している人が事故に遭うかもしれないことなどが挙がる。一方、品質問題を内部告発すれば、品質保証部の社員はなんらかのペナルティが与えられ、その家族や世間に顔向けできなくなり、会社の売上は低下して株主は損失を被ることになるなどの意見が出る。これら以外にも会社の通報窓口に相談に行くとか、経営者に直談判するとかさまざまな選択肢が挙げられ、その都度誰にどのような影響があるかを想像して述べさせる。次に(5)について、結果にかかわらず、そもそも品質保証部に勤めている人には本来どのような責任と義務がありどのように行動すべきかを考えてもらう。ここで多くの学生は、品質の維持に努め、もし問題があればそれを正す義務があると述べる。(6)ではどのような人でありたいか、徳のある人だったらどう振る舞うかを問う。自分に焦点をあてることが難しい人には、もし自分のことが書かれた新聞記事を世間の人が読むとしたら、あるいは、親しい友人や家族が自分の行為を知ったときに自分という人間がどう思われるかを想像して、それが嫌だと思うことはしないほうがいいだろうと伝える。(4)、(5)に関して事前に帰結主義と非帰結主義の考え方を説明する。帰結主義とは、行為の結果や波及効果といった帰結を手がかりとして議論を進めようとする考え方で、学生にはベンサムによって理論化された功利主義を示す。一方、非帰結主義は行為以前の動機や合意形成などに注目する考え方である。学生にはカントの義務論を説明する。(6)に関連して徳倫理という考え方があることを示し、アリストテレスにも言及する。(4)、(5)、(6)は考え方を示すだけであり、自動的に正しい答えが出るわけではない。また、それぞれの検討結果で答えが異なることもあり、最終的な意思決定は各人に任される。最後にもう一度、これまで検討した選択肢以外に(7)創造性を働かせてもっといい選択肢はないのかを考えてみる。それでも迷ったら(8)あとは直感を大切にして決めるしかない。3.4 ねらい3:人々には多様な考えがあり自分の考えだけが正しいわけではない基盤教育機構の授業は異なる学部の学生が教室に会し、議論するので多様な意見を聞くのには適した場所である。自分の意思で考えを述べさせることを大切にしているので指名することはせず、学生に自主的に挙手をさせて発言させるようにしている。少ない時で出席者の3分の1、多いと3分の2近くの学生が授業中に発言する。一つの問いに異なる意見が複数出るので、人によって考え方や判断が異なることを知ることができる。さらに学生同士が意見を交わす機会を作るため、13週目(最終回)の授業では4名から5名程度のグループで発表してもらう。異なる学部、学年でグループを作り、話し合いでテーマを決めさせて、倫理的課題、ステークホルダーへの影響、解決策などを発表させている。グループで意見を出し合ってパワーポイントで発表資料を作成する過程はフラストレーションや難しさを感じることもあるが他の人のアイデアによって助けられることもあり、学びも多いと思われる。就職活動におけるグループ面談の準備にもなることを伝えて積極的に参加するように促す。授業の効果4ビジネス倫理の授業を受講することで、学生はアルバイトや卒業後の職場でより良い倫理的な意思決定や行動ができるようになっただろうか。結論から言うと、受講者はまだ卒業していないし、卒業生がいたとしても職場での行動を観察することができなければ判断できない。しかし、履修者に対して実施したアンケート結果から、受講した学生に一定の影響を与えることができたのではないかと推測する。図1と図2は、講義内容をひととおり終えた第11週の授業後(第12週、第13週の授業はグループ発表の準備と発表が主たる内容のため)に実施した2020年度の春・秋学期の合計と2021年度の春学期のアンケート結果である。なお、2020年度の授業は新型コロナウイルス蔓延の影響を受け、リアルタイムのオンラインで実施した。参加状況把握のためアンケートは記名式としたため、回答にバイアスがかかっている可能性がある。2021年度春学期は対面で授業ができたこともあり、アンケートを無記名式に変更した。2020年度、2021年度春学期ともに回答者の全員が授業の内容は社会に出たときに実際に「とても役に立つ」または「ある程度役に立つ」と回答し(質問1:図1)、52特 集CUCの倫理教育

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る