cuc_V&V_第52号
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21「情報と倫理」から我々は何を学ぶべきかはじめに1私が、本学基盤教育機構において教養科目である「情報と倫理」を担当して3年目になる。情報と倫理とを結びつける内容は、現代社会においては重要な課題ではあるが、必修科目ではないし、資格試験ともとりあえず関係はない。大学教育としての学習カリキュラムは確立されておらず、制約もまた少ない。学生諸君には、この授業からあとに残る「何か」を学んでもらえればよいと少し気軽に考えて授業を始めることとなった。新しい授業を開始する場合、私は、まず、教科書になりそうなテキストと関連研究を探し回ることにしている。そこで見い出したのが、小島らのテキスト(小島 2018)とIECのテキスト(情報倫理教育グループ 2018)、ならびに、少し遅れて出版された放送大学のテキスト(山口, 中谷 2020)であった。これらにしたがって、ICTがらみの基本概念の紹介プラスアルファの内容でよかろうと最初の計画を立てたのである。しかし、授業を始めてみると、ネット炎上やSNSの問題、米国大統領選をめぐるフェイクニュースなど、民主主義の根幹をゆるがすような大きな社会問題が頻発するようになり、このようなアプローチでは手に負えないことがわかってきた。既存の教科書に頼っていてはいけないのである。新入生には、新鮮な野菜のような授業が必要である。そこで、サラダとしては、その年に出版された啓蒙書の類を用いる。そして、毎回、20枚程度のパワーポイントスライドを準備し、副教材として、村田潔らによるテキスト(明治大学ビジネス情報倫理研究所 2012) を利用する。サラダの味を決めるドレッシングとしては、大学教員から小説家に転じた森博嗣の「質問させる授業」(森 2001)と、我々が10年以上研究を継続してきたマンガによるケースメソッド(吉川 2007)を使うことにした。授業の目標は、情報と倫理の関係を知るにあたって、「まず自分を守ること、他人を守ること、そして社会を守り次の世界を構想すること」である。シラバスには次のように記述してある:「最新のニュース情報を利活用しながら、現代社会で必須の情報と倫理の諸問題を扱う。特に、人工知能(AI)、マルウェア、ネット炎上などの社会・技術・人間のからむ新しい問題に対応する能力を養う。最近の情報技術・利用技術の原理を説明したうえで、なぜ、新しい倫理が必要になるのかを論ずる。そして、今後、情報社会で発生するであろう課題に柔軟に対応できるだけの素養を身に着けることをねらう。」より具体的な内容は、情報セキュリティやインターネット社会の技術など既存の教科書に記述されている事柄、ネット社会におけるトラブル、個人情報とプラ千葉商科大学基盤教育機構 教授寺野 隆雄TERANO Takaoプロフィール1978年 東京大学情報工学修士課程修了。1978~1989年 電力中央研究所勤務。1990~2004年 筑波大学大学院経営システム科学専攻講師・助教授・教授。2004~2018年 東京工業大学・知能システム科学専攻・情報理工学院教授。2018年 産業技術総合研究所招聘研究員・千葉商科大学経済研究所客員研究員ほか。東京工業大学ならびに筑波大学名誉教授。2019年より、千葉商科大学基盤教育機構教授。工学博士。社会シミュレーション、サービス科学、人工知能、進化計算などに興味をもつ。特 集52特 集CUCの倫理教育CUCの倫理教育

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