cuc_V&V_第52号
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26分であり、この点において法制度がまったく時代遅れになっていることである。実際に、技術的には複数の情報を統合することによって比較的容易に匿名性が破られ個人を特定できるようになる。また、このような技術を不十分な状況で適用することによって個人に濡れ衣を着せる可能性があることを指摘している。第4に、フェイクバスターズで取り上げられていたネット情報を見極める7つのポイント「だしいりたまご」である。(だ)誰が言っているのか?(し)出典はあるか?(い)いつ発信されたか?(り)リプライ欄にはどんな意見があるか?(た)たたきが目的ではないのか?(ま)まずは一旦留保しよう(ご)公的情報は確認したか?の語呂合わせであるが、これは(たぶん)受講者の記憶に残る標語だと思う。第5に、人工知能(システム)と倫理の問題である。これについては、私の解説(寺野 2019)にほぼしたがって人工知能の概念をおおよそ説明する。そして、AIに奪われる可能性のある仕事の特徴を示し、自動運転技術に関連させてトロッコ問題を扱ったりしている。トロッコ問題とは、トロッコが暴走したときポイントを切り替えることで、1人を救うか5人を救うかという、コンフリクトを伴う意思決定問題である。通常の状況では、5人を救う方を選ぶ者が普通であるが、1人が自分であった場合には結果は異なる。自動運転車に自分が1人乗っていて、5人の他人をひきそうになったときにはどうなるだろうか?誰がそのソフトまたはAIを開発するのだろうか?さらに参考図書を指定しての議論では以下のような題材をとりあげている。まず、ビットコインをはじめとする仮想通貨が普及するにつれて、貨幣とその管理に関する技術と倫理の問題が重要になってくる。これについては、(長沼 2020)が現代経済学の概要を理解したうえで、ブロックチェインの技術と貨幣の関連についてあざやかに説明しているので、このテキストに基づいて、ブロックチェインの原理と方法を紹介している。デジタルアイデンティティについては、「あなたがあなたであるために」を補足する意味で、企業やビジネスにおけるサイバービジネスの核心に関する議論を適切に行っている書籍「デジタルアイデンティティ」(崎村 2021)を紹介している。人工知能と倫理との関連についてはCoeckelberghによる「AIの倫理学」(Coeckelbergh2020)と久木田らによる「ロボットからの倫理学入門」(久木田2017)を紹介している。ちなみに、授業は担当してはいるものの倫理学についてはあまり知識のない私にとって、この2冊は非常に参考になった。さらに、最近話題となっているScott-Morganによる「Neo-Human」(Scott-Morgan 2021)も欠かせない。この著者は、経営コンサルタントとしてすでに多くの優れた著書を出版しており、同性愛者であることを公言している。彼が、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症し、余寿命が数年と診断されたことをきっかけに、自らの身体をサイボーグ化しようとしたストーリーである。ALSの患者の死因が、筋力の低下による誤飲や食物摂取の不足による栄養失調であることを知った著者は、声帯を削除し胃ろうによる栄養摂取と人工肛門などによる生活に切り替える。その代わりとして、ICT技術を目いっぱい活用して、バーチャルに世界中を飛び回り、講演もこなすという近未来的な生き方を実践する。今後の情報と倫理を考える上で多いに参考となる書籍である。新しい問を求める5この授業の成績づけは、毎回課しているミニレポートの内容と授業への感想・質問、ならびに、最終レポート(コロナ以前の対面授業では最終試験)による。レポート課題は以下の2つである:課題1:この講義の中で興味をもった概念について、ひとつ以上、自分なりに理解した内容をまとめよ。課題2:「情報と倫理」は新しい科目である。そのための教授方法も確立されておらず、教科書も適当なものは存在しない。あなたが担当教員だとしたら、期末試験としてどのような問題を聴講する学生に与えるか?問題の候補をひとつ以上挙げその理由を述べよ。課題1に関する回答には、授業の後半に扱う人工知能の話題、SNSやビジネス関連するマンガケースの52特 集CUCの倫理教育

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