cuc_V&V_第52号
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3252かもしれない。ルーブリックを用いて評価できるのは、学生が倫理的な選択をするための知的ツールを持っているかどうかということである。(AAC&U 2019:69)例えば、「異なる倫理的視点や概念の理解」の項目については、ベンチマークとなる状態が「学生は使用した主な理論の名称のみ述べることができる」であるのに対して、最終基準では「学生は使用した理論の名称を述べ、その理論の要点を提示し、その理論の詳細を正確に説明することができる」となる。これらは倫理に関する理論についての学習の成果として期待できる力であり、それは「倫理学」などの講義の受講を通して得ることができるだろう。この場合、倫理学の講義で高い評価を得ることは、学生の「倫理観の高さ」を示すことはないが、学生が「倫理的推論」を行うために保持している知的ツールの精度を示すとは言える。また、「倫理的問題の認識」の項目については、政治学や社会学など個別の専門科目を通じて、「倫理的視点・概念の応用」の項目についてはゼミナールのようにディスカッションを用いたプログラムを通じて評価することができるだろう7。こうした評価は、すべて倫理的行動に関わる知的ツールの有無に焦点が当てられており、倫理観や倫理的行動そのものの有無や是非に向けられているわけではない。むしろ、そうした判断や評価が「不可能」であるという認識から、学生に求める能力としては「倫理的推論」を、学習成果として可視化すべき対象としては推論のためのツールの保持と精度を評価対象として設定していると考えられる。こうした手法を学生の一般的な「倫理観」に適用することは難しいと言わざるを得ない。看護医療におけるコンピテンシー・マトリックスや、AAC&UのVALUEルーブリックの存在は、一見すると学生の倫理的な意思決定能力を直接評価する仕組みに見えるが、そこには次のような制約や限界があるからだ。第一に、ある人物の倫理観や倫理的能力を評価する (出典)AAC&U All 16 VALUE Rubrics in one le-Japanese translationより抜粋7なお、この項目にある「複合的・重層的(グレー)な関係性」という用語については、ルーブリックに付属する用語の定義のなかで「学生が識別する必要がある問題・関係性・複合的状況に、二つ以上の倫理的ジレンマ(問題)を持ち込むシナリオの各部分、または状況的条件」という説明がなされている。特 集CUCの倫理教育

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