cuc_V&V_第52号
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4552トピックスは自らの利潤獲得のための行動を社会的に責任のあるものにしなければならない。これは極めて重要な視点であり、実際、世界的なスポーツ用品メーカーのナイキは、こういった第2・3の範疇の視点を等閑視した結果、1997年に自らが委託するインドネシアやベトナムといった東南アジアの工場で、低賃金労働、劣悪な環境での長時間労働、児童労働、強制労働が発覚したことによって巻き起こった世界的な不買運動によって、深刻な経済的打撃を被ることになった。この点について、SDGsという観点から眺めた場合、目標8の「継続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、すべての人に対する完全かつ生産的な雇用と適切な雇用(ディーセント・ワーク)の促進」、また目標12の「持続可能な消費および生産形態の確保」が特に想起される。実際、上記の第2・3の範疇に包含されるような社会的課題に企業が対処するためには、目標8の核心である持続可能性を意識することが不可欠である。また、第2の範疇の「通常の経済活動の対外的影響」に配慮することは、目標12と共通している。さらに、第3の範疇における雇用・労働問題に代表されるような「企業内部」の課題事項の解決は、目標8における「すべての人に対する完全かつ生産的な雇用と適切な雇用(ディーセント・ワーク)の促進」に一致している。(3)SDGsと「企業倫理学」・「二大原理」「企業の社会的責任」論及び「企業の社会的即応性」論を受けて1980年代に確立された企業倫理の考え方は既にSDGsの核心を形成していた。特に、シルク=ボーゲルが1976年に著した『倫理と利潤』は、アメリカの企業に対して公衆が持っている信頼を揺るがすような問題を剔抉したという点で大きな意義を持つ。そして、当時の企業倫理は、「社会的課題の事項への対応」という意味で、経営学的研究に位置づけられてきた一方で、「企業倫理学」として、道徳哲学及び倫理学の理論ならびに分析方法を用いて具体的な問題を考察しようとする応用倫理学として企業活動においても適用されていくことになったのである。そして、こういった流れは、フレデリック=ポスト=デイビスの二大原理の役割にも投影されている9。二大原理は、「慈善原理」と「受託原理」を指す。「慈善原理」とは企業が社会における貧困な人々に対して自発的な援助(voluntary aids)を与えることであり、他方の「受託原理」とは企業が公共の受託者としての役割を果たし、経営上の決定並びに政策によって影響を受けるあらゆる人々の利益に配慮しなければならないというものである。前者の「慈善原理」を現代的表現で言い換えるとすれば、それは、企業の社会貢献であり、また、社会的福利の増進のための自発的措置(voluntary actions)となると言えよう。具体例を挙げれば、企業によるフィランソロピー活動などがこれに該当する。一方、同様にして「受託原理」を現代的表現によって言い換えるならば、それは、企業と社会との相互依存性の認識であり、社会における多数の多様な集団の利益及び要求の均衡を指し示すものである。したがって、企業は自らの行動において、利潤最大化を常に目指すのではなく、それが常に公共の福祉と一致するようにしていかなければならないのである。一方で、キャロルは、「企業の社会的責任」論の理論上の展開を踏まえ、1979年に社会的責任の「4パート・モデル」を提唱した。この「4パート・モデル」は、CSRの構成要素を具体的に「経済的責任」(economic responsibilities)、「法的責任」(legal responsibilities)、「倫理的責任」(ethical responsibilities)、「社会貢献的責任」(philanthropic responsibilities)の4つに分類した。これは、実務家にとっても「企業の社会的責任」論を理解しやすいものにし、支持を得ることになった。そして、キャロルは、1991年に「4パート・モデル」を基に「CSRピラミッド」を構築した。このピラミッドは、経済的責任を土台に、法的責任、さらに倫理的責任が積み上げられていくというもので、その上の最上部分に社会貢献的責任である慈善的責任が形成されている10。そして、このキャロルのCSRピラミッドはSDGsへの思想上の中核の端緒となったと考えられる。第2章 あらたなCSRの構築11そもそも環境問題は、産業革命を機に顕著になり、9Frederick, William C., Post, James E., and Davis, Keith, Business and Society : Corporate Strategy, Public Policy, Ethics, 7th ed., p. 33.10Carroll, Archie B., The pyramid of corporate social responsibility : Toward the moral management of organizational stakeholders, Business Horizons, Volume 34, Issue 4, July–August 1991, pp. 39-48.11本章は、主として原科幸彦の環境アセスメント及びエルキントンが1997年に提唱した「トリプルボトムライン」の概念に基づいて執筆したものである。

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