cuc_V&V_第52号
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4652トピックスいわば企業の工業化が環境問題のきっかけとなったと言えよう。それは、マルサスが1798年に著した『人口論』に起因し、環境の有限性が明確になったことを示している。マルサスによって提示された懸念は、第二次世界大戦後の1960年代から経済活動の大幅な躍進により資源とエネルギーの大量消費が進行した結果、排ガス・排水・廃棄物の量も増大し、先進国での環境問題が深刻になったことによって示されている。さらに、バーデンの『サイエンス』に掲載されたコモンズの悲劇は、まさに、人間の活動の規模が食料生産力や自然浄化能力を超えてはいけないという示唆に満ちたものであった。バーデンは、環境問題の解決を図ったが、彼はその解決に存在する技術的な解に注目した。そこで、解が存在するものと存在しないものに分かれていることに気付き、それを我々に提出した。彼によれば、その解が存在しないものこそが環境問題なのである12。ここで重要な点は、バーデンがその解の存在しない環境問題について、人々の意識を変え、選択を示唆したことにある。確かに、意識の変革は容易ではないが、環境問題は人口増加の結果、生存を支える、資源・エネルギーが十分でなくなったため生じているのだから何らかの規制が必要だと指摘する。つまり、この環境問題の解決には計画的・戦略的なアプローチが必要なのである。原科は、こういった計画的、戦略的アプローチを政策から計画へ、そしてその計画を実現する事業といった階層構造を示すことによって明らかにした。そしてその具体的な政策手段として次の3つを示した。それは、規制的手段、経済的手段、情報的手段であり、原科はそこから環境計画の核心に接近した13。その意味で、第1章で述べた「企業と社会」論の進展が企業の「社会的責任」論、「社会的即応性」論、企業倫理学、二大原理、さらにキャロルのピラミッドへと2000年まで企業が社会に対しどう向き合うべきかを段階的に確認してきたが、そこで環境は企業とのトレードオフの関係をいかに乗り越えていくかが必ず議論されていた。こういった環境の問題は社会問題として表出してくるが、そこには、今述べたバーデンの考える解決できる問題と解決できない相反する問題が生じているのである。これについて以下に時系列で追ってみたい。エルキントンは、トリプルボトムラインといった経済、社会、環境に目を向け、持続可能な社会の構築を企業に促してきた。そこでエルキントンが注目したのは1960年代から始まる大衆の大きな環境課題に向けた圧力である。その圧力に対し政府と公共部門の役割と責任はこの圧力に対応し変化を遂げ、企業も「企業と社会」の問題として今述べた変遷を辿るのであった。エルキントンはこの環境問題の大衆の圧力を3つに分けた。エルキントンは、その後、現在に至る未来予測の中で第4の波、第5の波を描いているが、何れにしてもこのように、環境問題は、次章で述べる環境経営へと具現化していくのであった。ではここでエルキントンがみた3つの圧力の波を概観してみよう14。①第1の圧力の波第1の圧力の波「限界」は、1960年代初頭に形成された。その波は、60年代の終わりに強まり、1969年から1973年に頂点に達した。1970年代の中期には、環境立法化の波が経済開発協力機構(OECD)の国々に押し寄せ、産業界は遵法モードに入った。第1の引き潮が来て、1970年代半ばから1987年まで続いた。酸性雨は1980年代初頭に欧州連合(EU)の政治に大きな影響を与えたが、全体としてみれば環境立法を逆転させるために多大なエネルギーが投入された保守政治の時代であった。しかしながら、大きな転換点が1987年にやってきた。②第2の圧力の波第2の「環境」圧力の波が、1988年にブルントラント委員会(UNWCED、1987)による『われら共通の未来』の出版で幕を開け、「持続可能な発展」という言葉を政治の本流に注ぎ込んだ。オゾン層の減少や熱帯雨林の破壊といった問題が新しい運動、すなわちグリーン・コンシューマーリズムの火に油を注いだ。第2の波の頂点は、1988年から1991年であった。第2の引き潮は1991年に来た。1992年のリオにおける国連の地球サミットは、今にもはじまりそうな引き潮を遅らせた。つまり、気候変動や生物多様性問題を扱うマスメディ12Hardin, Garrett, The Tragedy of the Commons, Science, New Series, Vol.162, No.3859(Dec.13, 1968), pp.1243-124813原科幸彦、原沢英夫「環境計画・政策研究の背景と枠組み」原科幸彦編著『環境計画・政策研究の展開』岩波書店、2007年、17-55ページ。14エイドリアン・ヘンリクス、ジュリー・リチャードソン編『トリプルボトムライン』(大江宏・小山良訳)創成社、2007年、15-18ページ。

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