cuc_V&V_第52号
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4952トピックスセスメント制度導入の閣議後においては順風満帆というわけではなかった。その意味で1980年代末に起こる地球環境問題まさに第2の波、特に1992年のリオデジャネイロでの「環境と開発に関する国連会議」での地球サミットが「持続可能な発展」といった言葉を普遍化させていくのであった。我が国においてもその後の1993年環境基本法が制定されるなど環境アセスメントの制度が明確にされていくのである。以上からNPOなどの外部の圧力と、それを受け環境アセスメントといった政府行政での制度化、そしてそれを受けてCSRが連動していく三者の関係性の深化が2000年以降のCSRとして高度化していくのであった。その端緒となる考え方は先にも述べたが、エルキントンが提出したトリプルボトムラインといった経済、社会、環境を連動させていくものであった。そしてそれが我が国においては環境経営として具現化していくのである。第3章 環境経営からの視点これまで述べた2000年代以前のCSRの流れは、あくまでも、企業と社会といったCSRからの視点であり、その企業にとっての社会的責任への立場から環境といった側面が提出されてきた。それは、1960年代70年代に提出された課題であり、その環境といった視点は、環境経営として新たな学問的視座を構築してきたのであった17。さらに、企業は第2章で述べた企業外部からの環境に対する圧力、特にNPOなどにより、企業経営に対し環境の視点を強化していった。また政府もそれを受け、環境アセスメントといった制度を構築していったのである。つまり、このような外部からの環境といった視点によって企業経営が環境経営に傾斜していったのである。そこで、本章では、これまでの企業と社会からの視点を、環境経営から捉えていくことにする。では、そもそも、環境経営の萌芽とはいったいどのようなものであったのであろうか。ここでそれについて論じてみたい。まず、第2章で確認できたことは、地球規模での環境問題に対し世界的規模での関心を獲得できたことであった。また、その環境に対し持続可能な社会の構築を維持するために、政府も環境アセスメントとして制度化した。企業はその応答としてこれまでの利潤獲得に向けた動きと同時に環境保全の考え方にも舵を切ってきたということである。ここでCSRの視点で環境経営を考えてみたい。CSRにはT.フリードマンの考えに依拠したCSR消極論と、デイビスとブルームストロムが唱えたCSR積極論がある18。M.フリードマン19は事業活動に直接関係しない慈善活動や寄付行為を行うことは株主の利益に反する行為であると考えた。そもそも株式会社は所有と経営の分離で成り立っており、専門経営者は株主から経営を任された受託者でもある。したがって、社会的責任というのはあくまで利益を上げて株主への配当を確保していくことが企業活動の前提と考えたのである。つまり、M.フリードマンは企業が利益を創出しそれによって納税を行うことこそが社会貢献であると考えたのである。この前提は利益追求と同時に法律や社会規範を遵守していくことである。だが、デイビスとブルームストロムは企業が社会の中で富と権力を持つことは同時に企業の責任も増大することを意味するのだと考えた。つまり、この責任を果たすことが社会からの企業が存続する正当性を獲得することにつながり、その企業の経営行動は社会から受容されていくのだと考えた。したがって権力を持つものが仮に責任を負わないとすればその権力はやがて失われ、だからこそ、権力と責任は長期的に均衡状態に向かうと考えたのである。実は1970年以降、M.フリードマンの株主支配論が批判され、CSR積極論が多くの企業に導入される傾向を持った。このような動きが環境経営として顕在化していくことにつながっていくのである20。また、T.フリードマンによるCSR消極論とデイビ17鈴木幸毅「環境経営学の体系」鈴木幸毅・所伸之編『環境経営学の扉』文眞堂、2008年、1-25ページ。鈴木は環境経営の背後にある学問に依拠し、環境経営を体系的にとらえている。特に1960年代後半から発芽する環境科学、また環境経済学に注目し、その学問的発展をアメリカ、欧州に分類し、同時に環境社会学の視点にも目を向け、環境経営学の基盤を確認してそのうえでアメリカから発芽した環境経営論を概観した。18CSRの消極論、積極論については、それぞれトーマス・フリードマンの『フラット化する世界』(伏見威蕃訳、日本経済新聞社、2006年)、Davis, Keith, and Blomstrom, Robert L., Business and society : environment and responsibility 3rd ed. (McGraw-Hill, 1975)を参照。19M.Friedman,(1962) Capitalism and Freedom, Chicago, University of Chicago Press.20田中信弘「CSRの理論とその展開」佐久間信夫・田中信弘編『改訂版 CSR経営要論』創成社、2019年、20-38ページ。

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