cuc_V&V_第52号
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5052トピックススとブルームストロムのCSR積極論はフレデリック=ポスト=デイビスの3人がまとめた二大原理、つまり、消極論が受託原理であり、積極論が慈善原理と転換できる。では、環境経営とはどのような考え方なのであろうか。鈴木幸毅は「環境経営は、環境型社会の実現を目指す企業経営スタイルであり、人間社会の持続的発展を目指す共生原理に立脚して地球環境問題に対処し、修正自己責任に立脚して社会的代位性を体現し、環境責任・貢献を至上として実践し、もって企業目的たる利潤の実現をはかる企業経営の像である21」と規定している。つまり、企業の経営活動の中で環境を保全するための経営行動をとるということは、これまで相対する経済と環境とのトレードオフ関係を解消していくことをイメージしたものなのである。言い換えれば、この環境型社会の実現を目指す企業経営スタイルの基盤をなすものが市場のメカニズムに環境という基軸を入れていくことに結び付くのである。では、環境経営を成立する基盤はどこにあるのか。ここで環境経営に関する価値基準について向き合う必要がある。これまでの企業の存在意義は利潤追求がその第一であった。それゆえに、T.フリードマンのCSR消極論が受容されてきた経緯がある。しかし、その後はデイビスとブルームストロムのCSR積極論が企業経営に大きく刺激を与えることになったが、そのためには、経営者自身が自らの価値観を転換する必要がある。そして、このような転換を促すための一つの規範となるシグナルは野中や竹内が提唱した知識創造に存すると考えられよう。実際、新商品や新技術は、知識によって生まれ、新たな経済価値の創出につながる。そして、その日々の事業活動において知識創造を行っているのは、経営者であり従業員である。したがって、知識創造が問われる時代になればなるほど、つまり経営者自身が環境経営に対する知識に目を向ける必要が特に重要とされる時代になって初めて、企業における環境経営の前提が整うのである22。改めて言えば、これまでの株式会社の中心的な理論であった株主支配論がステークホルダーによる協働システムによって企業統治が行われるステークホルダー支配論の二つの見解のせめぎ合いにより環境経営も揺さぶられてきた歴史を振り返ると、こういった中でも主流であった株主支配論が2000年に向けて大きくステークホルダー支配論に傾斜していくことになったということがわかる。さらに、環境経営が経済価値や環境価値、そして顧客価値を満たし、環境効率は、社会が期待する環境保全による価値を形成していく。そして、顧客価値は消費者あるいは取引先が期待する価値となり、そうした価値を生み出す企業がさらに技術力を高めることによって、革新が実現されるのである。すなわち、効率的な事業システムを構築し、経済価値は他の価値を実現する基礎となるのである。このようにして環境経営で実現する価値は経済価値であり、顧客価値であり環境価値となるのである23。こういった株主支配論は、T.フリードマンのCSR消極論に言い換えることができ、またデイビスとブルームストロムのCSR積極論がステークホルダー支配論と結び付いていくことになる。このような価値の前提があって環境経営が成立し、2000年代の持続可能な社会の礎となっていくのである。第4章 考察現在SDGsが多くの企業の経営方針に組み込まれ、持続可能な社会の構築が市場経済をけん引する一定の価値を担うこととなった。これは新自由主義による市場原理への反証であり、これまでの資本主義の再構築を促すものになるであろう。実際、環境と開発はトレードオフの関係であったものが現在のように環境がイノベーションを誘発し経済の活性化に寄与するという新たな視点は2000年を契機に行き着いた考え方である。それはまさに、社会、政府、企業との関係が再構築されたことを意味している。その上で2000年前後の大きなうねり、特にエルキントンのトリプルボトムラインは持続可能な社会の構築をCSRに注入させ、CSR積極論として今日のCSRの基礎を築いたと言え21鈴木幸毅『環境経営学の確立に向けて』税務経理協会、1999年、72ページ。22金原達夫・金子慎治『環境経営分析』白桃書房、2005年、53ページ。また、知識創造の概念については、野中郁次郎・竹内弘高『知識創造企業』(梅本勝博訳、東洋経済新報社、1991年)を参照。23同書、54ページ。

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