cuc_V&V_第53号
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853図表3 コロナ感染者数と産出量とのトレードオフ関係(出所) Fujii and Nakata (2021) p.9まとめ5経済学には、経済史、労働経済学、開発経済学、制度比較、財政論、金融論といった様々な分野がある。統計に基づいた実証分析は、様々なミクロデータが得られやすくなった現在、主要なものとなっている。また、エビデンスに基づく政策立案(EBPM)は、数値を用いたデータ解析によってなされなければならない。その意味で、経済学の考え方を用いてデータを統計的に分析する研究がより進むであろう。本稿で紹介したものはその一部にすぎない。しかし、これらからみえてくるのは、データを用いた分析を行うことによって、限られた予算制約の中、最も効果的な様々な政策を行うことができる可能性があるということである。そして、経済学はそのようなデータ分析において有用な1つのツールであるといえよう。しかし、はじめのところで述べたように、コロナ関連の対策をみる限り、わが国ではどうやら経済学の有用性はまだ十分な評価が得られていないようにもみえる。わが国でもさらなるデータ活用ができる環境と、経済学を用いた実証的な研究が今後とも進展し、それらが政策に生かされ、ひいてはわが国の生産性が高まることを願うだけである。そして、もう1つ残念なことがある。このようなデータにもとづいた分析が当たり前になっているにも関わらず、本学の状況はそれを十分活用できているとはいえない。例えば、個々の学生の成績や出身高校さらにその学生がどのような入試形態で入学したのかといったデータを、それがプライバシー保護されたものでも、専ころでも述べたように、新型コロナウイルス感染に関する政府のアナウンスや政策は、こういった裏付けをもとに行うのが望ましいのではないだろうか。また、上記のノーベル賞の対象となったこれらの研究が発展途上国での政策が主であり、貧困解決に向けたSDGsの取り組みを行っていたことも、その評価を高めた1つの要因であろう。わが国のコロナ関連の経済分析4新型コロナウイルスが世間で騒がれるようになって約2年が経過した。この間にも、経済学者はコロナ関連のデータを用いた分析を行ってきている。いくつかの研究を紹介したい。例えば、渡辺他(2020)は、『JCB消費NOW』のデータを用いて、コロナ前とコロナ後の消費データを比較し、季節要因なども取り除いたうえで、自粛の状況を明らかにしている。その結果から、項目別では娯楽・交通・外食で自粛効果がみられた一方で、ゴルフ場や喫茶店・カフェの自粛効果は小さいことを示している。また、年齢層では35〜54才の人は自粛効果が大きかったが、30代前半や若年層は若ければ若いほど自粛効果が弱いことを示している。小西他(2020)は、スーパー・コンビニエンスストア・ホームセンター・ドラッグストアのPOSデータを用いて、日本人は自発的にマスクをし、アルコール消毒をし、感染防止を積極的に行ったことを明らかにしている。さらに、感染予防のための製品について、誤った情報に対して、販売額が急増するものの、正しい情報が提供されると急激に元に戻ることもみられることを示している。中田(2021)は、アンケート調査による旅行経験を被説明変数とした分析から、旅行によるコロナの感染拡大の影響がみえたと同時に、若年世代、男性、拡大地域の人、友人とよく会うような人がそのリスクが高く、老年世代、女性、知人との接触を抑制している人はそのリスクが低いことが示されている。また、Fujii and Nakata(2021)は、経済活動とコロナ医療との間のトレードオフの関係を、そのシミュレーションから導出している(図表3参照)。また、そのデータは定期的に更新をされ続けており、現在もWEBでみることができる。特 集社会科学におけるデータ分析

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