cuc_V&V_第53号
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1353によって作られた統計であり、現代ではこの値がマクロ経済分析にとって重要なだけでなく、政治的、社会的にも注目されるものとなっている。社会科学におけるデータが、今や我々の経済、社会をも左右するものになっているのである。SNAの体系は、各国経済における産業構造の変化や国際化などに伴い、修正が加えられてきた。1968SNAでは、産業連関表、資金循環表、国際収支表などが体系に加えられ、従来のSNAにあたる部分と接合された。1993SNA、2008SNAの改定では、経済状況の変化に合わせて、前述の自社開発ソフトウェアや企業内研究開発などの活動がGDPに含まれるなどの変更が加えられた。また、国際化の進展にともない、国民経済の生産水準を示す指標として海外からの所得の受け払いを含むGNPは次第に適切な指標ではなくなり、日本では1990年代頃からGDPが主な生産指標として用いられるようになった5。このように、SNAやGDPは完成された枠組みではなく、時代ごとの経済状況の変遷に応じて変化していくものとなっている。マクロ経済を分析するにあたり最も注目される指標はGDPであるが、SNAではGDP以外にも様々な指標があり、それらを包括した大きな体系となっている。SNAは当初国民所得勘定から出発したが、1968SNAにおいて産業連関表、資金循環統計、国際収支統計、国民貸借対照表などを包括した体系へと改訂された。産業連関表は、既に紹介したように、財・サービス市場におけるフローを1枚の表にして示したものであり、各産業間の取引額、産出額、付加価値を把握することができる。また、家計、企業、政府、海外などの部門がどれほど財・サービスを需要しているかについても把握することができる。資金循環統計は、通貨とのGNPが西側諸国で第2位になったことは一般に知られるニュースとなったし、その後は経済成長優先という世相を批判する言葉として「くたばれGNP」という言葉が使われた。SNAを実際に推計するにあたり用いられる枠組みの一つに産業連関表がある。産業連関表は、1920年代末にW.レオンチェフによって考案されたものであり、各産業部門と家計、企業、政府、海外部門といった制度主体との取引を1枚の表に示したものである(図1)。レオンチェフはこの表を用いて、最終財への需要が原材料投入などを通じて各産業へと波及していき、最終的に経済全体としてどの程度生産を増加させるかを推定する「産業連関分析」という手法を考案した。産業連関表は、現在では産業連関分析に用いられるだけでなく、GDPを推計する枠組みとしても活用されている。産業連関表における粗付加価値と最終需要は、そのまま生産側GDPと支出側GDPに対応しており、産業連関表を作成することがそのままGDPを推計することにもなるためである。現在のSNAにおいて産業連関表に相当する部分は、供給表と使用表と呼ばれるものであり、レオンチェフが考案した産業連関表とはやや様式が異なっているが、部門ごとの投入構造と産出構造が示されるという点は共通している。産業連関表の部門数は国によって異なるが概ね100~500部門程度で作成されている。日本の産業連関表は約500×約400部門で作成されており、200,000程度のセルがあることになる。統計調査の情報からこれらのセルの値をすべて埋めることはできないため、当然ながら一定の仮定や推計によってセルを埋めていくことになる。こうして作成された各セルの値を合計して得られたものがGDPである。GDPはまさに加工図1 産業連関表の数値例44総務省編(2015)より引用。5経済企画庁経済研究所国民所得部監修(1975)をみると、欧米諸国ではそれ以前からGDPへとシフトしていたようである。特 集社会科学におけるデータ分析

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