cuc_V&V_第53号
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1453我が国では、2020年の2月に新型コロナウイルス感染者が出現し始め、3月には流行が本格的なものとなり、「自粛」や緊急事態宣言の発出による経済危機が盛んにさけばれるようになった。これに呼応して、経済対策として全国民を対象として一時給付金を支給すべしという議論が発生し、1ヶ月後の4月末には国民全員を対象とした10万円給付の方針が決定された。1~3月を対象とした四半期GDP速報は5月中旬に公表されたため、GDPの情報はこれらの議論に寄与しなかったということになる。情報の伝達速度が高まるとともに、不況の発生は極めて速い速度で感知され、これがにわかに政策的課題として浮上する。不況による痛みを最小化するような経済政策が求められる。こうした現代経済の状況を踏まえると、速報性への要望はますます高まっていくだろう。現在、民間調査会社などにおいて、物価や生産活動に関する日次指数などの超短期データを公表する動きがある。こうした動きは上記のような速報性へのニーズを反映したものということができるだろう。また、SNAの体系に関する課題として、産業や制度部門という形で若干の細分化はされているが、基本的に集計量で示されている点が挙げられる。SNAにおける産業は、ある産業内に存在するすべての企業が集計され、合算されたものとして示されている。しかし、実際には、産業内においても業績が好調な企業と不振な企業とがある。これらの企業の値を合算して得られる産業ごとの付加価値や利潤にはどのような意味があるのだろうか。SNAにおける付加価値率や貯蓄率などの計数は、その産業や制度部門に含まれる全ての経済主体の活動を合計したものであり、これが全体を代表したものとして解釈できるかについては議論の余地がある。産業内にある事業所の活動が同質的であった時代であればともかく、多様化の進む現代では、産業内や部門内のばらつきを考慮して解釈する必用がある。このような観点からすると、企業の規模(大企業、中小企業)、所有(本邦、外資)、貿易(輸出、非輸出)といった性質に応じて分割して表章していくことが課題になるだろう。OECDなどの国際機関における議論でも、多国籍企業の活動をSNAでどのように扱うかが議論となっている。また、しばしば指摘される点として、シェアリング信用のフローを示したものであり、現金、預金、証券のような金融資産ごとの情報が得られる。国際収支統計は海外との取引を記録したもので、財・サービスの貿易、要素所得の受払い、移転などの情報を得ることができる。国民貸借対照表は、有形、無形に関わらずストックを記録したものであり、有形資産、無形資産、金融資産の状況を制度部門別に知ることができる。これらの統計を用いることにより、国民経済の全容が明らかになり、様々な観点から検討することができる。現代では、各国のSNAが国連の勧告にしたがってある程度統一した方法で作成され、公表されている。それにより、各国の経済規模や経済成長率を一般の国民までが知ることができる。自国の経済規模やその時系列変動の把握、国ごとに異なる産業構造や発展段階の比較、これらを比較可能にしたという点でSNAやGDPという加工統計の枠組みは画期的なものであったといえる。マクロ経済統計の現代的課題5マクロ経済統計にも、現代経済の状況を踏まえたアップデートが常に求められている。ここでは現代のSNAやGDPにどのような課題があるか、いくつかの点を取り上げて議論することにしたい。まず、データの速報性の問題である。マクロ経済統計は、加工統計であるがゆえに作成まで一定の時間を要する。我が国では四半期GDP速報の一次速報は1ヶ月と2週間後、二次速報は2ヶ月と2週間後となっている。外国をみると、その四半期が終了してからGDP速報が公表されるまでの期間は、イギリスが1ヶ月と10日程度、アメリカが1ヶ月程度、中国が2週間程度となっている。このように、どれほど速報化したとしても、集計・推計のために一定の期間がかかるのが実情である。一方、現代の経済においては速報性への要望はますます高まっている。2008年のリーマン・ショックとそれに続く世界金融危機や、2020年からの新型コロナウイルス流行においては、数日から数週間というきわめて短期間のうちに経済状況が急変する様子が見られた。経済的混乱を最小化するためには、これらの危機が生じたところで間髪入れず対策をとることが必用となる。特 集社会科学におけるデータ分析

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