cuc_V&V_第53号
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1753組織を対象とするか(ケース)、複数の組織を対象とするか(フィールド)、といった点によって分類されている。表1 1981年から2000年までの海外主要ジャーナルに掲載された管理会計研究方法また、わが国に研究を対象にヘスフォードらの分析をフォローアップした吉田他(2009)でも、ほぼ同様の分類が用いられている。表2 1980年から2007年までのわが国主要ジャーナルに掲載された管理会計研究方法このうち、本稿で扱うデータ分析を行う研究方法には、アーカイバル、実験、サーベイが該当する。まず、アーカイバルとは、主に第三者に向けて組織が開示した情報を収集し、分析を行う手法である。アーカイバル研究で収集されるデータについては、伝統的には公表財務情報がほとんどであった(吉田他、2009)。つまり、財務会計研究と同じように、上場企業の財務諸表に記載された財務的な数値情報について、データベースなどを用いて大規模サンプルのデータ収集、分析を行う研究が想定される。この研究方法は、上述したとおりどちらかというと財務会計分野で主に用いられているものであり、組織内部のマネジメントを扱う管理会計分野では、研究上有用なデータを収集することが困難であるとされてきた(Hesford et al.、2007)。したがって、サーベイ研究に比べ研究の数としては多くない。しかしながら、近年ではコスト・ビヘイビア(組織の操業度とコスト変化の関係)について分析を行う際、アーカイバル研究が行われている(北田、2016;安酸・中岡、2020 等)。また、わが国では、有価証券報告書を対象にテキストマイニングを用い分析を行った研究が登場している(近藤・石光、2020)。上述した統合報告書や日本企業に特有の中期経営計画といった開示資料の存在を考慮すると、財務情報のみならずテキスト情報に着目したアーカイバル研究は、今後進展の余地があると考えられる。つぎに、実験とは、被験者に特定の課題や情報を与え、そこでの意思決定や行動を測定、あるいは実験後の質問票調査によりデータを収集し、分析を行う手法である。実験法は、欧米の研究では各年代で全体の10〜15%ほどの割合で行われてきた(Hesford et al.、2007)。それに対し、わが国ではその数が極端に少なく(吉田他、2009)、現在に至るまでこの傾向が続いているといえる。わが国で実験による管理会計研究が行われない理由を断定することは困難だが、後述する神経科学を応用した研究と同様、研究の設計段階で研究者が支払うコストが大きく、わが国の研究者が置かれた環境にはあまり馴染まないことが背景にある可能性は、否定できない。最後に、サーベイとは、調査対象となる母集団に対して質問票調査を行い、情報を収集、分析する手法である。伝統的には、郵送質問票調査を行い、5〜7点のリッカート尺度などで構成される質問項目からデータを収集し、定量的な分析を行っていた。近年では、メールで依頼状を送付し、Web上の質問フォームに回答してもらうことでデータを収集することが可能となり、管理会計研究でも用いられている。サーベイは、いわゆる「実証研究」として、管理会計研究でもっとも主要な研究方法のひとつといえよう。管理会計研究における郵送質問票調査は、企業の財務部門を対象としたものが多いが、事業部門や経営企画部門を対象としたものもある。さらに、特定の組織内において、組織成員を対象に質問票調査を行うこともある。以上の伝統的なデータ分析の方法の概観から、3つの指摘ができる。第一に、多くの研究者がサーベイ研究を行ってきたという点である。第二に、それぞれの特 集社会科学におけるデータ分析

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