cuc_V&V_第53号
40/56

3853トピックス「木村家そば店きおくうた」全文ずんずんと歩いた日も とぼとぼと歩いた日も あったろう長い一本道をたどり 女学校へ通った いつかあの日 あの道へまさか 商売をやるとは思わなかったある人が毎晩 提灯ぶらさげ 訪ねに来てこの店の奥で 結婚式を あげる日まではけれど それでも 月日はまわる気づけば そば屋を 手伝う日々むかし店は 終車まで開けていた毎日 寝るのは一時 起きるのは五時よくつづいたよね 若かったからだよ朝市で かごを背負って野菜を買う お客さんが帰りにみんな そば食べに 店が開くのを待っていた私のお昼は 四時か五時年越しそば すごかったですよ むかしはみんな とってくれるから私のおそばは 除夜の鐘が鳴ったころ 年を越してからそばが 三十円だった時代かつお節を 築地に買いに行ってそばは打ちますよ 練り鉢でいまも小さいからだで おかもちをもって 配達もしたずんずんと歩いた日も とぼとぼと歩いた日も あったろう自転車に乗ったあの人の 背中を見ながら歩いた いつかあの日 あの道へお父さんが自転車で そばを二十も三十もかついで私はそのあと つゆを抱えて 歩いてくけれど それでも 月日はまわる街はずいぶん変わったけれど 変わらない場所でお出迎え変わらない味はつづいている いつかあの日 あの道へん」にして、店の軒先に飾るのである。2017年4月に行った聞き取りと撮影をもとに制作された以下の六店舗の『牛久のれん』が、2018年 5月3日から6日の「アートいちはら2018春」(「い ちはらアート×ミックス」継続イベント)の開催期間中、連携企画として各店舗に展示された(筆者と荻野亮一が作詞した「きおくうた」全文から、デザイン担当の高橋洋介氏が一部を引用して、のれんに組み込んでいる)1。作品のベースになるのは、私たちが聞き取る店主たちの人生の物語である。私たちはそれを歌詞にして、この街で歌い継がれていくような歌を共につくる。私たちはそれを「きおくうた」と呼んだ。商品の販売促進を目指すというよりも、店先を歩く人たちとの対話をうながすアート作品をつくりたい―。商店会との話し合いのなかで生まれたアイデアは、『牛久のれん』として日の目を見る。各店舗の「きおくうた」をお店の顔である仕事場の店主の写真とともに「のれ1『牛久のれん』ポートレート写真:荻野亮一(Keio ABR)、展示風景写真:後藤一樹(2018年5月5日撮影)、きおくうた作詞:後藤一樹・荻野亮一、聞き取り:後藤一樹・荻野亮一・原地利忠(牛久商店会)、記録:堀口裕三(Keio ABR)、デザイン:高橋洋介(市原市地域おこし協力隊)、のれん作製:株式会社マンザキ(牛久商店会)、制作:市原市牛久商店会・Keio ABR。「木村家そば店のれん」

元のページ  ../index.html#40

このブックを見る