cuc_V&V_第53号
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453くないように思えるが、なぜ日本の病床はこの程度でひっ迫していくのだろうか。経済学者はこの点について早くから警鐘を鳴らしてきた。例えば、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会に参加する大竹文雄氏や小林慶一郎氏らが「コロナ患者の受け入れ能力を2倍以上に高めないと、(中略)、失業率や貧困の増加が発生する。」とする提言を発した1。また、自殺者の数は2019年から2020年も2021年も増えている。さらに、このうちいわゆる経済・生活問題による自殺者数も増加しているうえに、そのうち生活苦が理由だった人の数は1割増の990人にもなっている2。経済学者はデータに基づいた分析を行い、EBPM (Evidence Based Policy Making:エビデンスに基づく政策立案)を常に行っている。具体的には、あとでみるように、ランダム化比較実験を行って、経済政策の有効性を分析してきている。もし、飲食店での飲酒が感染源とするのであれば、飲食店で飲酒をともなった会食を行ったグループと、それを行っていないグループの感染状況をデータで集め、それを分析・考察することから飲食店における飲酒の禁止や営業時間の制限などがなされるべきである。しかし、そのようなデータを収集しているようなことは2022年1月末現在では聞かない。本稿のねらい本稿では、経済学におけるデータ活用のいくつかの研究を取り上げる。具体的には、近年のノーベル経済学賞を受賞した研究を紹介する。また、このコロナ禍におけるわが国の経済学的分析も紹介したい。これら経済学におけるデータ利用千葉商科大学商経学部 准教授大塚 茂晃OHTSUKA Shigeakiプロフィール博士(経済学、関西学院大学)。千葉商科大学商経学部専任講師・2019年より現職。専門は、金融論・プルーデンス政策。著書に『日本預金保険制度の経済学』(蒼天社出版、2018年)がある。1日本経済新聞2020年8月18日(朝刊)5面2警視庁(2021)『自殺統計」(速報)』、警視庁.はじめに1パンデミックによせて本稿を執筆している2022年1月末において、わが国の新型コロナウイルス新規感染者数は1日あたり7万人を超える水準が続いており、病床数ひっ迫などのニュースが流れていた。一方で、先進各国の2022年1月上旬の同新規感染者数の状況(1日あたりの1週間平均)はこれよりも多い水準であった。例えば、新規感染者の数は、イギリスで約15万~約18万人、アメリカで約40万人~約80万人であった。人口はイギリスが約6700万人で、アメリカが約3.3億人であることから、10万人あたりになおせば、イギリスは日本の約4倍~約5倍、アメリカは日本の約2倍~約4倍の新規感染者が出ている計算になる。それでも、この両国の医療はもちこたえている。新型コロナウイルスについての報道が頻繁になされるようになった2020年2月から丸2年が経とうしているのに、上記のようにイギリスやアメリカに比べ感染者の割合はそれほど多特 集社会科学におけるデータ分析特 集社会科学におけるデータ分析

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