cuc_V&V_第53号
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653とのみで比較検討の対象とはならない)、そのくじによって徴兵された人と徴兵されなかった人との差から、従軍経験によるその後の様々な影響について分析をしている7。例えば、従軍経験と死亡率の研究では、従軍経験のある白人男性は、0.15%もその他のグループよりも死亡率が高いことが分かった8。この死亡率は、とても若い人を対象としており、具体的には、1974年~1983年(1950年生まれと1951年生まれの白人男性がサンプルであることから、23歳~33歳に死亡した人を指している)の死者をもとに行っている。そのため、この分析結果は、自殺などについての情報も考慮したうえでのものなので、驚くべきものであった。また、Angrist and Krueger(1992)は、週の平均賃金とベトナム徴兵義務のくじ引きとの関係から分析をしている。くじの数字が低い(つまり、徴兵されやすい)グループは、徴兵された結果、戦地で死亡するリスクなどを考えて学校へ入学することや勉強をしなくなる可能性がある。人口調査に基づき、これらをコントロールしたうえで、学校により長く行って学ぶことが、週あたりの賃金を引き上げることから、より学ぶように義務化することの必要性を明らかにしている。図表2の教育のところが6.6%高くなっている。図表2 1944年~1953年生まれ男性による推計値さらに、このAngrist and Imbens (1995)は、操作変数についてどのように扱うべきなのかについて詳細に示しており、この点もノーベル経済学賞の科学的背景の中でも詳細に述べられており、経済学的に分析する際には知っておく必要があるものであるともいえよう。2.3 小括これらの研究は、現在の経済学の研究に、特に実証金が引き上げられる前後を比較分析することによって、最低賃金の引き上げの影響の考察を行っている。また、隣接するペンシルベニア州もニュージャージー州の最低賃金の引き上げにより労働者が移動したり、売上が上がったりする影響を受けると考えられ、この2つの州をとりあげ、分析を行っている。具体的には、最低賃金で働いていると考えられるファーストフード約410店(バーガーキング、ケンタッキーフライドチキン、ロイロジャーズ、ウェンディーズ5)に電話調査を最低賃金が引き上げられる前後で行い、そのデータをもとに分析を行っている。その分析から、様々な要因(例えば、正社員を非正規にすることや、数字に表れないような福利厚生(無料や廉価で食事ができること))を考慮しても、最低賃金の引き上げによって雇用が失われることが起こっていないという結果になった(図表1参照)。図表1から正規雇用の増加率とニュージャージー州の最低賃金の引き上げには正の関係を示している。さらに、最低賃金があがったことと雇用の増加がみられた。これは、価格への転嫁(実際には雇用費用の増加以上の増加)がうまくいったうえに、需要の減少が起こらなかったことがその要因としてあげられている6。図表1 誘導型モデルにおける雇用量の変化2.2 操作変数法とその具体例また、Angrist et al (1996)がベトナム戦時下にあって徴兵制が一部くじ引きで行われたことを利用して(多くは自発的に手を挙げてベトナム戦線に出たが、それらの軍人は民間への就職が困難な人だった可能性もあり、ベトナム戦争に出た、出なかったかというこ5マクドナルドは調査に十分に応じてもらえなかったので調査対象から外れている。6しかし、例えばわが国の隣国の韓国では、文在寅(ムン・ジェイン)政権下で最低賃金を2018年に16.4%、2019年10.9%、2020年2.9%と引き上げたが、失業者が増加している。このことは、Card and Krueger(1994)の結果とは異なった状況を示している。7その抽選方法は以下のとおりである。1年の365日の各日にランダムに1~365までの数字を付し、その誕生日の番号がある数字以下(1950年生まれは195以下、1951年生まれの人は125以下など)であった場合が、徴兵の対象となった。(Angrist and Imbens(1995)pp.453-454.)8Angrist and Imbens (1995) p.454特 集社会科学におけるデータ分析

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