cuc_V&V_第54号
14/64

12にといったようにデザインを構成する要素を自作もしくは専門スタッフに依頼し準備する。現在はどの要素の準備もデジタル上で作業することになるが、最終的にはどのような手法(印刷仕様)を用いて、情報を物質としての用紙に定着させるかを決定し、印刷工程を経て、最終的な成果が現れる。筆者のゼミに所属する学生は全ての役割を自身で担うと前述したが、写真撮影やイラストレーションに関心を持つ学生と分担し、それぞれの得意分野のスキルアップと並行して、デザインのクオリティを向上させることを目的に制作に取り組むこともある。デザインの仕事に関わるため、もしくはその分野で長く活躍するための学び方として、学びの領域を「知」と「技」と「美」に分類することができる。「知」は書体、可読性、誘目性、配色、紙面設計などの知識の習得に加えて、歴史を学ぶことである。歴史を学ぶ必要性はデザイン領域に限ったことではないが、ある日突然、誰も見たこともないモノが世に登場することはなく、どのようなデザインにおいても、それが生み出されるきっかけになるモノが存在し、その過程は果てしなく遡ることができるため歴史を軽んじることはできず、それらがどのような社会状況の中で作られたのかという過去を知ることで未来を想像することができるのである。「技」は、現在ではデジタルアプリケーションの操作習得だと認識されることが多いだろう。そのことを否定はしないが、最終的な成果物が手に取ることのできるグラフィックデザイン領域においては、用紙の質を感じ、それを加工するアナログ的な技術も習得する必要があるが、それは人間の目や手先の感覚がデジタルワークのみでは再現できないためである。「美」は読んで字の如く美しさとは何かを学ぶことである。美的センスは持って生まれた才能かもしれないが、身の回りに存在するモノを作り手の視点で観察し、その技をいかに盗むかということによっても向上させることができる。つまり第三者的な作り手の視点で自身が制作したモノを含め、モノの評価ができる能力を身につける必要がある。筆者のゼミでは「知」に関しては学びのきっかけを提供し、その後は学生自身に一任している。もちろん、疑問やその学生なりの考えを踏まえたディスカッションを行うこともある。「技」に関しては学生それぞれの目標に合わせた内容で、デジタルワークにおける指導を行いつつ、アナログで作業する機会もなるべく提供するように心がけている。「美」に関しては「知」と同様、学生に一任しつつ、ディスカッションの機会も設けている。筆者が担当するゼミでは前述した学びの実践として、他の領域を学ぶゼミや学外の企業や団体から広報物制作を受注し、そのデザインワークに取り組んでいる。本項ではその中のひとつ、市川市消防局からの受注制作について報告する。これまでゼミで取り組んだ成果物は市川市内をはじめ、大学近隣の地域で掲示されることが多く、その活動が市川市消防局の目にとまり、地域連携推進センター(千葉商科大学内)にポスター制作についての相談があり、筆者のゼミがその案件を受けることとなった。ポスターの掲示予定は2022年度からということで、初回のミーティングを2021年5月に実施した。初回のミーティングでは、危険が伴うことや身体的に高度な能力が必要となるというような理由から、消防吏員を職業として希望する新卒生が減少している、特に女性吏員は獲得が難しいとの吏員募集の現状についての報告を受けた。人材募集のために、業務内容の危険が軽減されたり、高い身体的能力が求められなくなることはないが、まずは消防吏員という職業に関心を持ってもらいたいという意向で、新卒生と年齢や感性が近く、デザインを学んでいる学生に制作してもらいたいとの要望があった。初回のミーティングを経て、依頼内容や市川市消防局の意向をゼミ生と共有し、消防吏員にどのようなイメージを持っているか、また、どのようなデザインが新卒生の目を引くかを検討させたが、その結果、根本的にゼミ生(筆者も含む)は消防吏員の業務内容を火災時の消火作業、人命救助といった報道されている情報から得た概要のみの認識であり、職業としては危険を顧みないヒーロー的なイメージを持っていたようである。このような認識のままではテーマやコンセプトも曖昧になってしまうため、少しでも消防吏員の業務内容を知るため、消防局の現場見学(図1~8)を依頼し、2021年7月に消防本部である市川市消防局(市川市八3デザイン領域の学び方4.1ゼミナールでの取り組み事例紹介①

元のページ  ../index.html#14

このブックを見る