cuc_V&V_第54号
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3010 前述したとおり、公募型ALは正課外の教育プログラムである。正課科目がそれよりも優先されることは言うまでもない。正課外のALを実施するだけのために大学教育が存在しているわけではない。今後は、正課科目と正課外のALがうまく循環できる教育プログラムの検討が課題である。資料:筆者作成図2 ALに取り組む学生のモチベーション考えられる。そのため、いつでも相談や課題の共有が可能なAL委員会や学部事務課などによるフォローが重要になる。コロナ禍は、改めて大学教育の意味を問い直す機会になった。学生との会話で、「対面で一方的な講義だったら、オンラインで十分。大学に来る必要ないですよね」という声を聞いたことがある。何気ない会話であったが、これからの大学教育に対する鋭い指摘ではないだろうか。改めて、学生にとっては「何のために大学に来るのか」、大学にとっては「何のために大学教育が存在しているのか」という根源的な問いと向き合わざるを得なくなった。つまり、ポストコロナ社会における大学教育の姿について考えなければならない。オンライン授業の活用は、その有効性が認められ、これからも継続するだろう。コロナ禍でオンライン授業が本格的に導入された当初、学生からは対面授業への希望が強かった。現在は「オンライン慣れ」が広がり、対面授業が増えたとしても、オンライン授業(その多くがオンデマンド)を優先的、意図的に選択する学生も多い。例えば、対面授業は週1回のゼミだけにし、その他をオンライン授業にすれば、アルバイトをしながら自分の自由な時間も確保できる、遠方からの学生は通学時間の削減や交通費の節約ができるなどの理由からである。一方で、「ガクチカ」という言葉が定着しているように、学生時代に何に力を入れて取り組んだかが就職活動の障壁になっている。2020~21年度はコロナ禍で様々な活動が制限され、就職活動に足を踏み入れた現在の3年生には焦りも見られる。筆者のもとにも、「ガクチカが何もなく、今からALに参加できないか」という相談があった。オンライン慣れは、ガクチカの充実と相関関係にはなく、大学と学生との距離を物理的、精神的に広げてしまう。そう考えると、人間社会学部がこれまで取り組んできたALは、大学と学生のつながり、関係性を結び直し、主体的な学びの場を提供できるのではないだろうか10。これは当然のことながら、ガクチカにもなり、就職活動を支える役割を果たす。ただし、ここで留意したい点は、ALはガクチカのために存在しているのではないということである。「就職=社会人」などと表現されるが、そうではなく、学生という肩書きを持ちつつ、地域や社会と向き合い、その担い手でもある。SDGs時代の教育は、それを前提に進めたい。図2は、ALに取り組む学生のモチベーションについてである。そこには、「狭義」と「広義」のモチベーションが存在する。狭義のモチベーションは個人的なもので、ガクチカや就職活動、これらと親和性が高いコミュニケーション能力の向上のような自身のスキルアップや弱みの克服、仲間づくりややりがいのような自己充足などが挙げられる。広義のモチベーションは公共的、社会的なもので、地域や社会の課題と向き合い、地域活性化、持続可能な社会の担い手として活動し、ガクチカや就職活動への還元はその結果でしかないという捉え方である。本来のALは広義のモチベーションで、ALを進める大学側もその意味を改めて認識しなければならない。つまり、大学教育は就職させることだけがゴールではないということである。協働する企業、NPO、自治体などもガクチカや就職活動のために学生と一緒に取り組んでいるわけではなく、現場で生じている課題の解決や既存の活動のさらなる発展を目指している。筆者は、ALの成果をガクチカや就職活動に活かすことを否定しているわけではない。大切な点は、狭義と広義のモチベーションに接点をつくり、狭義から広義のモチベーションへの展開の道筋をつけ、その具体5「ガクチカ」を超えて

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