cuc_V&V_第54号
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2340授業の構築を目指した。だが、結論から言うと、今回の取り組みの多くは「失敗」に終わった。タイトルに対して、実際の実践結果の多くが「失敗」であった、というのはおかしな話だと人は思うかもしれない。だが、私の考えでは、「失敗」の積み重ねだけが、本当に生きている土台を持った新しい創造性への活路となるのである。絵に描いた餅では生き残れない。想像だけでも心が、体が、ついてこない。筆者が直面した根本的な「課題」は、第一に「関心性」、第二に「持続性」、第三に「双発性」である。とにかくこの3点についての困難が極まっているというのが、筆者の実感である。そしてこれを克服するためのキーワードを、筆者は〈プレシャスネス(Preciousness)〉と呼んでみたい。以下、筆者が担当する各種の授業においてどのような取り組みを行い、どんなことを目掛けたかを踏まえ、その結果について考察したい。コロナ禍ですっかりなまってしまった「リアルコミュニケーション」を回復すべく、筆者は本年度上半期の授業には、この「リアルな」「コミュニケーション」と「双発性」を軸にして授業の設計を試みた。とはいえ、昨年度下半期における対面授業で感じた「配慮的空間」の空虚さには耐えられない、という感度があった。そこで、3つの担当科目のうち、最も履修者数の見込みが大きくなる哲学についてはいわゆる「リアルタイム」、倫理学については履修者数を絞って「対面」とし、研究基礎再履修クラスは原則対面というスタイルをとることにした。このことで、大人数履修科目のオンライン授業、少人数の対面授業、そしてゼミ規模のオンライン・対面運用のアイデアも総合的に学べると考えたからである。また、特に大人数履修者を前提とした授業運営という観点は、もともとは基盤教育機構で執り行うオムニバス科目の試験的運用ということも兼ねるつもりでいた。これについてはまた別の機会があるだろう。だがまず、300人の授業種目の設定を「リアルタイム」にするつもりだったのだが、手違いで「オンデマンド」クラスに設定してしまっていた。「オンデマンド」のクラスとして授業資料を準備し、音声を載せて、質疑があれば対応する、というやり方は、確かに合理的・効率的ではあろう。だが、はじめから「哲学」という授業において「資料の視聴と質疑対応」という方法は方法論として妥当と思っていなかったし、なにより、授業をする側がそれではつまらない。そういうわけで、授業ガイダンス時に、実施方法としては「リアルタイム」的に毎時間授業はTeamsで執り行ってゆくと伝え、オンデマンドで受けようと考えていた学生のためにそれは録画して視聴できる形とした。結果、リアルタイム的な授業運営に参加した学生は、少ないときは50人前後~多い時でも130人前後となり、参加者がまとまらなかった。これは「オンデマンド」と「リアルタイム」のかけ違いによるところが大きい。昨年度オンライン・リアルタイム授業では履修人数に対して6~7割程度の参加率をキープしていたからだ。このようなわけで、はじまりからかなり大きく踏み外したまま筆者の上半期は始まった。コロナの状況を踏まえ、学生の主体的な参加、学生のタイミングで参加できる授業運営を目指すものの、食い違いを抱え込んだまま走りぬくこととなった。300人の履修者で、上記の「食い違い」を抱え込んだ科目となったが、このクラスでは「授業ミッション」と「ミッション・フィードバック」、「全体チャット」という3つの取り組みを実施した。「授業ミッション」はポータルを活用し、各回の講義内容について設問し、それについて自由論述させるものだ。「ミッション・フィードバック」は授業時間内に、「前回のミッション」についてこちらからいくつかを紹介しフィードバックするものである。最後に「全体チャット」は文字通り、授業の時間の一部分を割いて、内容について学生たちに「チャットで意見を述べる」機会を作ったものである。結果としては、「授業ミッション」への参加率は、出席者数に対して約6割程度が当日中に提出し、時間をかけてそれぞれのペースで提出し、最終的には9割程度の提出・参加率となった。「授業ミッション」の自由記述は、これが授業のフィードバックの基礎になり、話す内容が学生たちの意見や考えをもとに変化するので、「書いて出すと読まれる=授業に貢献している=担当授業における企図と相補性大人数オンデマンド授業における企図と結果

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