cuc_V&V_第54号
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45出典:Yoram Koren(2010), 尾木(2015)を参考に筆者作成図1 自動車製造業の歴史的変遷出典:Schu,et.al,2020をもとに筆者抄訳表1 インダストリー4.0の成熟度の代替案が考えられる。ドイツはこの個別受注生産を迅速、フレキシブルかつ廉価に実現する能力構築が製造業を維持・発展させる喫緊の課題としてとらえ、インダストリー4.0を産学官で強力に推進している(Bauernhansl.T, 2014, Fraunhofer IAO,2013)。しかし、多くの中小企業にとってこれまでの自動化やファクトリー・オートメーションとインダストリー4.0の違いを理解すること、そして、その中心コンセプトであるサイバー・フィジカル・システム(以後CPS)の実態を知り、製造のフレキシビリティを実現することは容易ではない。一部にはインダストリー4.0の現状そのものに対する疑問(光山他、2017)やICTですべてが可能になるという超楽観的思考を危惧する考えもある(藤本、2017)。そこで第3章の先行研究ではインダストリー4.0のどのような点が一部研究者の危惧を招き、中小企業にとってわかりにくいものになっているのかを5つの視点で分析する。この検討内容を第4章の「調査と考察」で使われるアンケート調査項目設計につなげる。インダストリー4.0を理解しその効果を実現し、日本の競争力を強化するためには、中小企業経営者が自社の経営課題をインダストリー4.0との関係でどのように捉えているかを知ることが重要となる。 中小企業が課題解決のためにインダストリー4.0をどのように理解し、どこに危惧を感じているかの現状認識に関する調査研究は筆者の知る限り存在しない。 本稿では、中小企業の持つインダストリー4.0に対する認識実態をアンケート調査で把握し、導入のあるべき方法を提示することで今後の日本製造業のデジタル化実現、生産性向上、イノベーションの加速に貢献したい。インダストリー4.0とは、第4の産業革命を意味する。第1次は、水力・蒸気機関を導入した機械製造設備の導入、第2次は、電力をベースに分業化による大量生産、第3次は、エレクトロニクス、PLC、IT技術活用、第4次はCPSの活用である。その本質は、「工場のあらゆる装置をインターネットに接続できるようにして、ネットワーク化しよう」ということである。インダストリー4.0とは、エレクトロニクス・IT技術による(例えばPLC)自動生産を促進した第3次産業革命(以下、インダストリー3.0)に対し、第4次産業革命と呼ばれCPSの活用が特徴であるといわれている(尾木、2015、Bauernhansl.T, 2014)。光山と中沢(2017)は一橋ビジネスレビューへの論文で幾つかのポイントに言及し、インダストリー4.0が描いている姿は空論で、現場に行くと具体的な事実はないとしている。インダストリー4.0の主要推進機関の1つであるドイツ工学アカデミーは、段階的に発展する「成熟度」という考え方を提示し (Schu,et.al,2020)、インダストリー4.0は段階的に実現するものであることを示している。つまり、インダストリー4.0は現時点ですべてが実現しているわけでは無い。 表1に示すようにステージ1は、コンピュータ化、2は連結化、3は見える化、4は透視化、5は予知能力化、6は自律化となっており、1~2は従来からの自動化(インダストリー3.0)の範囲で、3~6がインダストリー4.0 として区別されている。 この区分は、前述したCPS(表1のデジタル・シャドーはCPSと同義語と考える)が含まれているか否かでなされている。ここで成熟度の各ステージの内容を解説する。2.インダストリー4.0とは

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