cuc_V&V_第54号
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47事象に入る。一方、欧米企業の強いパソコン産業などは、モジュラーのオープン事象に入るものが多い。インダストリー4.0の考え方は、コンポーネントをモジュラーにして、それらを組み合わせることで顧客の多様性に対応するマス・カスタマイゼーション(白井、2006, VDMA,Industrie 4.0 Forum, 2018)が基本戦略で、オープン化を支える様々な標準化、例えば、欧州各国が1984年に日本との技術的ギャップを埋めるために開始したといわれるFramework Program等(内田、2017)が現在に至るまで精力的に進められている。近年では「モノのパスポート」などデジュール(公的標準)の戦略強化の兆しがある(中山、2022)。このアーキテクチャー戦略を一歩進めた「オープン&クローズ戦略」(小川、2015)が注目されている。この戦略は、グローバルに急速に市場を席巻するためのオープン化と他社にまねされないインテグラルのキーコンポーネントの組み合わせである。例えば、アップルはiOSというインテグラルなオペレーティングシステムとAPI(Application Programming Interface)により標準化したインターフェースの組み合わせで構成され急速なグローバル普及と高い利益率を達成している。インダストリー4.0の狙いは、世界のサプライヤーをオープン・ネットワークでつなぎ(標準化)スピーディーにしかも低コストで顧客の多様性に対応しようとするものであるがコア技術領域はあくまでインテグラルに保ち、特許などで他社の模倣を排除する構造と言われる(小川、2015)。その意味では、オープン&クローズド戦略に近いと推測される。3-3 製造業のサービス化近年、モノのコモディティ化が進み、顧客の求めるものは、モノの所有から体験・経験へ移行してきた。その変革の一つが製造業のサービス化である。2004年に出された米国のレポート「イノベート・アメリカ」でその流れは鮮明となった。この報告は、IBMのPalmisano会長が共同チェアマンを務めた米国競争力協議会が作成したものである。その頃、サービス・ドミナント・ロジック(S-Dロジック)という概念が現れた(高梨他、2019、C.コワルコウスキー他、2020)。ドイツの自動車メーカー、ダイムラーのカーシェアリングサービス「car2go」は2010年開始された。製造業のサービス化の典型的な事例である。その最大の中心とする「深層の競争力」(藤本、20001)は1980年代に日本の製造業を世界の頂点に押し上げた。今もなおその成功体験が忘れられないイノベーションのジレンマ(クレイトン・クリステンセン、2001)の一因となっているのではという意見もある。「Lean」という名称は、1970年代米国のMIT(マサチューセッツ工科大学)がトヨタ生産方式を調査研究したIMVP(International Motor Vehicle Program)の中で初めて命名された。このリーン(lean)という言葉は英語で「やせた」とか、「脂肪が無く健康的」なことを意味する。このリーンという言葉により「トヨタ」という社名を使わず一般名でそのコンセプトを示すことができるようになり、競合他社を含め世界中で本格的普及が始まったといえる。MITから参加していたJohn Krafcik氏により命名された(ウオマック他、1990)と言われ世界中に普及されている(塚田、2019)。その後、トヨタ生産方式とLean生産方式はそれぞれ独自の進歩を遂げているがその基本となる価値観は同じものと言える。Lean 4.0はLean生産方式とインダストリー4.0を組み合わせた造語で、近年日本以外の国で研究が盛んである(VDMA、2018)。トヨタ生産方式で改善につかわれるデータをセンサーにより取得することで効率化する。例えば、生産性指標である設備総合効率(価値稼働時間/負荷時間)算出のデータの取得は人手で行うと、時間がかかり、正確性に欠けるが、IoT機器の助けを借りると効率的に行うことができる。トヨタ生産方式は、多くの日本の中小企業経営者にとってなじみがあり製造に関するわかり易い価値観だといえる。3-2 アーキテクチャー戦略アーキテクチャーとはシステムの性質を理解するための概念である。システムのとらえ方にはいろいろあるが、アーキテクチャーは「分け方とつなぎ方」に着目する。つまり、「全体をどのように切り分け、部分をどのように関係付けるか」、別の言い方をすれば、「構成要素間の相互依存関係のパターン」によって表されるシステムの性質をアーキテクチャーという。インテグラル(すり合わせ)対 モジュラー(組み合わせ)、クローズド(囲い込み) 対 オープン(業界標準)の2×2のマトリックスで表現することができる(藤本、2004)。日本の国際競争力を持つ製造業の自動車産業や軽薄短小の小型家電は、インテグラルでクローズな

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