cuc_V&V_第54号
5/64

3千葉商科大学政策情報学部教授 経済研究所長小林 航KOBAYASHI Wataru持ち帰ってさらに詳しい分析も行う。また、近くを通りかかる一般市民から声をかけられることも多く、コミュニケーションスキルを学ぶ場ともなっている。 2本目は、グラフィックデザインを主に学ぶ政策情報学部吉羽ゼミナールの活動を紹介している。吉羽ゼミでは、他の領域を学ぶゼミや学外の企業・団体から広報物等の制作を受注し、そのデザインワークに取り組んでいる。このうち、市川市消防局から依頼された人材募集のためのポスター制作では、消防吏員という職業に関心を持ってもらいたいという依頼者の意向を踏まえ、どのようなデザインが新卒生の目を引くかを検討し、現場見学会等を経て4名の学生がそれぞれデザイン案を提出した。また、地域政策系のゼミとの合同プロジェクトである街づくりシミュレーションゲーム(シリアスゲーム)の制作では、主にゲームで使用するカードやルールブックのデザインに取り組みながら、ゲームの内容改善にも貢献した。こうした活動を通じて、自分が関心を持つ専門分野以外の人たちとのつながり方を学ぶ意義についても考察している。 3本目は、サービス創造学部のプロジェクト活動を紹介している。同学部は2009年の開設以来、「学問から学ぶ」「企業から学ぶ」「活動から学ぶ」という「3つの学び」を掲げ、学部教員がそれを意識しながら教育活動を行ってきた。このうち、「活動から学ぶ」の中心的役割を担うのが2年次より受講可能となる「プロジェクト実践」という正課科目であり、そこでは「プロジェクト実践虎の巻」と呼ばれるルールブックに基づいた活動が求められる。これは、これまでの経験に基づき、学生たちがトラブルに巻き込まれるのを防止することを目的として定められたものである。また、同科目において履修開始時点から円滑な活動を可能とするために、2019年度より1年生対象の必修科目として「プロジェクト入門」を設置している。プロジェクト活動はゼミナール活動とは別に行われており、それらの共存が大きな教育効果をあげているという実感もある一方で、ALの質と量を担保するための体制構築も課題となるとしている。 4本目は、人間社会学部の公募型ALを紹介している。同学部では、1年次の必修科目である「研究基礎」において、ソーシャルビジネスに取り組む企業、NPO、自治体などを取材し、2年次以降の選択必修科目においても全員がALを経験することになるが、それらとは別に正課外の教育プログラムとして公募型ALを展開してきた。そこでは、教員が提案したプロジェクトの一覧を学生に提示し、説明会を行ったうえで参加学生を募ることとなるが、あくまでもALの主導者は学生であり、教員はその伴走者としてサポートすることが求められる。参加学生が確定すると、既存メンバーとの顔合わせや事前学習等を経て活動を開始するが、正課科目とは異なり、学期の区別がないため、「学びのプロセス」をつくることが難しい。そこで、オンライン研究発表会を設定し、定期的な振り返りを実施するといった取り組みも行われている。 5本目は、国際教養学部の奄美研修を紹介している。同学部では、入学式直後に実施する海外フレッシュマンキャンプや海外留学プログラムに加え、「日本を知る」という学部の理念を実行するために鹿児島県の奄美大島で研修を行っている。「日本」という国をより深く理解するには、首都である東京周辺も重要ではあるが、それとは大きく異なる特徴をもった地域を理解することも不可欠である。そこで選択されたのが東京から遠く離れた離島であり、独特の文化と生態系を有する奄美大島である。この研修は、現地での2泊3日の滞在に加え、事前講義と事後講義を組み合わせ、2単位の科目として運営されている。事前講義でインタビュー調査やグループワークの手法等を学んだうえで、現地で実際にインタビュー調査等を実施し、事後講義で調査結果をまとめ、発表する。多くの学生が研修を通して多用な学びの手法を経験するとともに、2年次秋の留学に向けて自発的に行動することの重要性を学んでいる。 6本目は、基盤教育機構で開講されている哲学と倫理学の講義におけるALを意識した取り組みを紹介している。今年度の春学期、哲学は遠隔オンデマンド型で、倫理学は教室での対面講義として開講された。前者については、リアルタイム型の講義と同様に毎週決まった時間にMicrosoft Teamsのビデオ会議機能を用いて実施しつつ、録画して視聴できる形とした。この授業での主要な取り組みの1つが、授業時間の一部分を割いて学生たちが意見を述べる「全体チャット」である。学生の「参加のノリ」は良いときと悪いときがあったが、これは設問の良し悪しに依っていたと推察している。後者については、対面での対話に力点を置き、「クラストーク」を実施したが、活発な議論を生み出すのは難しかった。これは、題材が非常に重いことも一因として考えられるため、もう少し「軽めのワーク」を開発することも重要な課題と考えている。

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る