cuc_V&V_第54号
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48出典:高梨他、2019、井上他(2010)を参考に筆者作成表2 モノつくりとサービス化これまで各企業が独自に製品やサービス、サプライチェーンにおける「QCD」の優位性で競争してきた。しかし、プラットフォーム時代のビジネスにおいては、プラットフォーム企業が顧客との接点を持ち、そこから製品選択が行われる。顧客にとっての価値(V)を、プラットフォームを活用(P)し、エコシステムを構成するステークホルダーとの連携・シナジー(S)の下にいかに価値提供するかの「VPS」が、競争優位性を左右するように変わってきた。競争軸が「QCD」から「VPS]へ移っていると言える(内平、2019)。プラットフォーム型では、自社と他企業が共同して顧客の要望を満たすように活動する。異なる機器の接続や、通信、集められたデータの処理を行うクラウド、そして、セキュリティが一体となって提供される。プラットフォームを活用するにあたり2つの戦略が考えられる。一つは、自社でプラットフォーマーになる「プラットフォーム展開戦略」、もう一つは、既存のプラットフォーマーを徹底的に活用・連携してビジネス拡大を図る「既存プラットフォーム連携戦略」が考えられる(小宮他、2020、立本、2017)。こうしたプラットフォームの進展で、いわゆる産業ピラミッドは徐々に解体し、それぞれの分野で強みを発揮する企業が対等な立場でつながるプラットフォーム構造が生まれ自前主義とは異なる価値観が生まれる(野路、2022)。3-5 顧客価値筆者が最初にCustomer Value Proposition(顧客価値)という言葉に接したのは2012年、M.ポーター教授の講演である。良い戦略を作るための5つのチェックの一番目が、「ユニークな顧客価値提案があるか」であり、どうしたら顧客価値提案が作れるのかが気になった。一橋大学の楠木建教授は、バリュープロポジションのことを「顧客に提供する価値の本質を凝縮して表現したもの」と定義し、「本当のところ誰に何を売るのか」に対する答えと述べている(アルフレッド・オスターワルダー他、2015)。クリステンセンはその著書「ジョブ理論」(クレイトン・M・クリステンセン、2017)の中で、顧客はある特定の商品を購入するのではなく、進歩するために、それらを生活に引き入れるという。この「進歩」のことを、顧客が片付けるべき「ジョブ」と呼び、ジョブを解決するために顧客は商品を「雇用」するという。ジョブを“ある特定の状況で人が遂げようとする進歩”特徴は「乗り捨て自由」にあるといわれる。それからかなり時間の経過した2018年にトヨタ自動車の豊田章男社長が「自動車メーカーから、モビリティサービスカンパニーになる」と宣言した。モノありきのG-Dロジック(Goods Dominant Logic)では、モノそのものに価値があり、価値はモノによって創出されると考える。S-Dロジックでは、モノは使用されて初めて価値を持つと考え使用価値や文脈価値が大切となる。これらを判断するのはユーザーであり、ユーザーはその使用価値に対価を払う。ユーザーは企業と共に価値を共創するパートナーと位置付けられる。デジタル化を装備したつながる機器(ICT機器)では納入後も長く顧客の使用状態がオンラインリアルタイムで入手可能となる。インダストリー4.0はCPSにより製造業のサービス化を加速する産業政策(尾木、2015)といえる。その点G-Dロジックの企業にとっては製品を売るという目的から顧客価値への発想の転換が求められる。前述のトヨタのモビリティカンパニー(MaaS: Mobility as a Service)への宣言のように頭でわかったとしても行動につながるまで時間がかかる可能性がある。3-4 プラットフォーム戦略VDMA(ドイツ機械工業連盟)やBITKOM(ドイツIT・通信・ニューメディア産業連合会)ならびにZVEI(ドイツ電気・電子工業連盟)が、協業関係を構築しインダストリー4.0の普及に努めている。2013年4月には、3団体を事務局とする推進組織Platform Industry 4.0が発足した。ドイツでの第4次産業革命を目指して、現実的な標準勧告を産官学の関係団体や代表的な企業に示すことで、市場競争の前段階での協業とネットワーク化を推し進めることを目的に発足した(高梨他、2019)。

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