cuc_V&V_第54号
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49出典:筆者作成表3 従来からの生産とインダストリー4.0の価値観4-1 調査項目と定義している。ジョブには機能面だけではなく、社会的及び感情的な側面もある点が特徴である。多くの場合機能面に焦点が絞られることが多いが、現実には、消費者の社会的および感情的なニーズが、機能的な欲求よりはるかに大きいことがあるという。彼は、「ジョブ」を説明するためにハーバード大学大学院のセオドア・レビットのいう“人は刃の直径が4分の1インチのドリルが欲しいのではない。4分の1インチの穴が欲しいのだ”という話を引用している。このように見ていくと、製造業のサービス化のところで触れた視点に類似していることに気が付くこととなる。実際に、顧客価値を設計することは難しいが、近年さまざまな方法論が開発されている。ビジネスモデルキャンパス(アレックス・オスターワルダー他、2012)には9個のファクターがある。「顧客セグメント(CS)」と「提案価値(VP)で「誰にどんな価値を提供するかを明確にする。次に、「チャネル(CH)」と「顧客との関係(CR)」でコミュニケーションをどうするかを記述する。そして、「主なリソース(KR)」、「主な活動(KA)」「主なパートナー(KP)」でそのために経営資源をどう組み合わせ、どう調達するかを示し、「収入の流れ(RS)」、「コスト構造(CS)」で全体を示す。これまでの品質、価格、納期(QCD)とは異なる新たな価値観の発見といえよう。以上、5つの先行研究のポイントをまとめると以下の表3のようになる。従来の製品の持つ品質・コスト・納期(QCD)中心の戦略はデジタル技術進歩による新興国の追い上げが厳しく差別化が困難となりつつある。QCD向上から、迅速性、フレキシビリティ―、サービス化そして顧客価値創造へと価値軸がシフトする。このことは従来からのQCDの重要性が無くなるということではない。QCDは基本であり続ける。この表は二項対立のような印象を与えるが、インダストリー4.0では「QCD中心」から「顧客や社会のため」へと価値観が拡大すると考えるのが妥当である。コマツのKOMTRAXが自社の建機の盗難防止や稼働状況の見える化により効率化する一方、LANDLOGはコマツの主要販売先である建設業界が抱える課題、深刻な人手不足の解決を目指し、オープンなIoTデジタル・プラットフォームを提供しコマツ以外の機器、例えば、計測用ドローン、他の建機やダンプカー稼働状況把握、その他顧客のニーズを満たすアプリケーションの運用を実現している(プレジデント経営企画研究会編、2018)。中立性を保つためにコマツはあえてLANDLOGという別会社を設立した。今後、サービス化やアーキテクチャーの新たな見方、プラットフォームを介しての他社との協業による顧客満足にフォーカスした戦略の検討が必要になるということである。従来からのQCDは基本として身につけながら新たな視点を持つという複雑性が、一部の経営者の混乱と誤解を生む可能性となっている。トヨタ生産方式での成功体験がイノベーションのジレンマ的にインダストリー4.0実現の阻害要因にならないように行動する必要がある。中小企業の経営者のインダストリー4.0についての認識実態調査を2021年秋、北九州工業専門学校の久池井茂教授と共同で行った。先行研究で得た知見をもとに作成した調査票は7つの大項目、45の質問項目に分けた。リッカート尺度の1(ほとんど無い)、2(少しある)、3(どちらともいえない)、4(ある)、5(大いにある)の5段階で評価された。7つの大項目の1.は「インダストリー4.0導入に関心とその「緊急性」」(以下、調査票の大項目及び質問項目は「」付で示す)である。2.はインダストリー4.0の「効果として期待すること」を知る。質問項目は「売上増加」「品質向上」「コスト削減」「納期迅速化」「フレキシビリティ向上」「人手不足解消」「作業環境(安全・単純等)改善」「グローバル化推進」「他社との業務連携」「環境問題解決(脱炭素等)」である。 3.は「関心を持つインダストリー4.0の適用分野」。質問項目は、企業内バリューチェーンの補助活動(「経営全般」、「人事労務」、「技術開発」、「調達」)4つと主活動(「購買物流」、「製造」、「出荷物流」、「販売」、「サービス」)5つ(Porter,1998)。 また、企4.調査結果と考察

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