cuc_V&V_第54号
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535 経済産業省(2015)『企業の持続的成長に向けた競争力の源泉としてのCSRの在り方に関する調査報告書 平成26年度総合調査研究』 あらた監査法人, pp.18-22。 ISO/SR国内委員会ウェブサイト,「ISO/SR国際標準化動向・主要文書」2003年2月, https://webdesk.jsa.or.jp/common/W10K0500/index/dev/iso_sr/。6 7 日本工業標準調査会 審議(2012)『社会的責任に関する手引 JIS Z 26000:2012』日本規格協会, p.9。括弧内の箇条番号は筆者省略。 菊池敏夫・平田光弘・厚東偉介 編著(2008)『企業の責任・統治・再生 ―国際比較の視点―』文眞堂, p.41。8 9 日本工業標準調査会前掲書 p.14。10 富士フイルム株式会社ウェブサイト,「コンプライアンスとリスクマネジメントの基本的な考え方」,  https://www.fujifilm.co.jp/corporate/environment/compliance/vision/index.html。11 アサヒグループホールディングス株式会社ウェブサイト,「コンプライアンス推進の基本的な考え方」,  https://www.asahigroup-holdings.com/company/ governance/compliance-management.html。12 サントリーホールディングス株式会社ウェブサイト,「サントリーグループ企業倫理綱領」, https://www.suntory.co.jp/company/csr/activity/management/compliance/ethics2.html。も含んでいる9」としており、大企業のみならず、中小零細の非上場会社も対象となる。(2) コンプライアンスの概念一方、コンプライアンスはアメリカで生まれた概念である。20世紀後半のアメリカでは会社の不祥事やスキャンダルが起きるたびに法律で規制し罰則を強化してきた。その際に、「従う」という意味のcomplianceが惹句として使われたとされる。その後、アメリカから日本に持ち込まれ、日本語に適切な訳語がなかったため、現在でもカタカナのまま用いられており、定まった定義はない。そのため、例えば上場会社の富士フイルムグループは「法律に違反しないということだけでなく、常識 や倫理に照らして正しい行動を行うこと10」と定義し、アサヒグループは、「法令や社内規定等のルール、さらには社会規範等の遵守も含めて、社会が私たちに対して当然期待するように行動する、すなわち『ステークホルダーとの信頼関係を決して裏切らないこと』 11」と定義している。また、非上場会社のサントリーホールディングスは「法令遵守はもちろんのこと、お客様、お取引先、地域・国際社会、自然環境、従業員など、私たちが関わるすべてのステークホルダーの期待に応える、より高い水準の倫理的考動を追求し、実践すること12」としている。それぞれ微妙に異なっているものの、いずれも「法令・社内規定・倫理・社会規範等の遵守」という点では共通している。そこで、本稿ではコンプライアンスを「法令・社内規定・倫理・社会規範等の遵守」と定義することとする。(3)  「社会的責任」とコンプライアンスの関係では、「社会的責任」とコンプライアンスとはどのような関係か。JIS Z26000では、「社会的責任」を果たすための原則として、①説明責任、②透明性、③倫理的な行動、④ステークホルダーとの利害の尊重、⑤法の支配の尊重、⑥国際行動規範の尊重、⑦人権の尊重の7つを列挙しているが、その冒頭で「組織は、たとえそれが困難だと思われる場合でも、具体的な状況において、正しい又はよいと一般に認められている行動入され、その後欧州型の概念が浸透していった5。会社のグローバル化が進むとこうした多様性から「企業の社会的責任」の統一規格が求められるようになり、国際標準化機構(以下、「ISO」)が策定した国際的なガイドラインがISO26000『社会的責任に関する手引』(2010年11月発行)であり、その日本版がJIS Z26000『社会的責任に関する手引』(2012年3月発行)である。「企業の社会的責任(CSR)」とせず「社会的責任(SR)」とされたのは、ISOでの議論の過程で、社会的責任を負うのは企業だけではないとされたからである6。「社会的責任」の定義については多くの研究者により試みられてきたが、こうした経緯を踏まえると、日本ではJIS Z26000の定義に収斂されたとみてよいであろう。そこで本稿ではJIS Z26000に基づき、「社会的責任」を「組織の決定及び活動が社会及び環境に及ぼす影響に対して、次のような透明かつ倫理的な行動を通じて組織が担う責任。・ 健康及び社会の福祉を含む持続可能な発展に貢献する。・ステークホルダーの期待に配慮する。・関連法令を順守し、国際行動規範と整合している。・ その組織全体に統合され、その組織の関係の中で実践される7。」と定義することとする。アメリカの「企業の社会的責任」の著名な研究者であるA.キャロルは、「企業活動は経済活動こそがまず第一であり、『企業の社会的責任』に類する活動はむしろ二義的である8」という考え方を示していたが、JIS Z26000では、そうした考えをさらに前進させ「その組織全体に統合され、その組織の関係の中で実践される」、すなわち「社会的責任」は本業を通じて取り組み、通常業務の中で実現するものであるとしている。また、人権へのより一層厳しい配慮が求められ、これまでの「社会的責任」では扱われることのなかった、違法行為または不作為を支援し唆す「加担」や、注意義務という意味での「デューディリジェンス」といった法的概念も含まれている。さらに、「“零細”組織と呼ばれる非常に小さな組織

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