cuc_V&V_第54号
57/64

・・・・55(出所)筆者作成。図2 コンプライアンスと会計ディスクロージャーの位置関係16 日本工業標準調査会前掲書 p.9。括弧内の箇条番号は筆者省略。17 日本工業標準調査会前掲書 p.22。18 厚東偉介(2013)「社会的責任論の現状とステークホルダー概念の淵源について」『商学研究科紀要』早稲田大学大学院商学研究科, 第76号, p.19。19 日本経済新聞ウェブサイト, 2015年9月17日,「東電に1950万円賠償命令 大阪地裁、原発事故巡り」, https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG16H 8N_X10C15A9CC0000/ 。20 日本工業標準調査会前掲書 p.22。21 角前掲書pp.84-101参照。22 藤野洋(2012)「平成23年度調査研究事業 中小企業の社会的責任(CSR)に関する調査(概要) 」 『商工金融』商工総合研究所, 第62巻第8号, 2012年8月, pp.22-64。3 「社会的責任」を果たすべき対象接取引のない会社から訴えられるということも十分あり得るのである。JIS Z26000も「組織は、自らのステークホルダーを特定するよう努力すべきであるが、その全てを知っているとは限らないかもしれない。同様に、多くのステークホルダーも、ある組織が自分たちの利害に影響を与える可能性に気付いているとは限らないかもしれない。20」としており、インターネットが世界中に普及し、複雑な取引関係の中にある現代の会社にとって、たとえ中小零細規模であっても全てのステークホルダーを特定することは容易ではない。では、会計ディスクロージャーの「対象」については「対象」は株主である投資家でなどうか。上場会社の主な「対象」は債権者である。しあるが、非上場会社の主かし、会計ディスクロージャーの重要な役割は、既存の債権者や株主等に財務報告をすることに加え、取引をすべきかどうかを判断する材料を提供するところにあり、その「対象」は既存の債権者等だけではなく、「将来利害関係者となりうる全ての人」を対象とすべきである。経済的発展という観点からも新規取引は重要であり、会計ディスクロージャーはその際の重要な判断材料であり、そのように考えると将来の利害関係者は既存の債権者等よりも重要な「対象」ともいえる。したがって、会計ディスクロージャーの「対象」は、上場会社・非上場会社にかかわらず、また決算公告・決算公告以外の計算書類等の開示にかかわらず、「全ての人」とすべきである21。4 非上場会社が持つべき心構えもし、非上場会社の会計ディスクロージャーが「社会的責任」の一つならば、非上場会社へ「社会的責任」を求める声が強くなるにつれ、非上場会社に会計ディスクロージャーを行うことが求められるはずである。しかし、実際は会計ディスクロージャーの実施に繋がっていない。では、非上場会社は「社会的責任」をどのように捉えているのだろうか。「社会的責任」について非上場会社に的を絞ったアンケート調査は見当たらないが、非上場会社の大半が中小企業であることを勘案し、2011年に商工総合研究所が実施した「中小企業の社会的責任(CSR)に関する調査22」(以下、「アンケート」)を援用して、非上場会社の「社会的責任」の捉え方について考察する。アンケートの結果を分析すると、自社にとっての「社ると、決算公告以外の計算書類等の開示は「コンプライアンス以外の社会的責任」に位置付けられると解するのが妥当である。したがって、非上場会社の会計ディスクロージャーは、まずコンプライアンスとして法定の決算公告をした上で、それを超える内容は「社会的責任」の一つとして行われるということになる(図2)。企業が「社会的責任」を負う相手は誰か、誰に対して負う責任なのか。この点、JIS Z26000は「ステークホルダーの期待に配慮する16」とし、「ステークホルダーとは、組織の何らかの決定又は活動に一つ以上の利害をもつ組織又は個人のこと17」としている。一見すると「利害関係者」と考えられるが、アメリカでは“Stakeholder”は単なる「利害関係者」ではなく「『訴訟の当事者・原告としての適格性のある』『利害関係者』18」と解されている。この考え方に従えば、裁判で原告適格なしとされれば、ステークホルダーではなくなるが、逆に全く想像もしない相手方がステークホルダーになることもありうる。例えば、大阪の関富薬品は東京の化学薬品メーカーから電解液等を仕入れ関西で独占的に販売していたが、東京電力福島第一原発事故の影響で東京の化学薬品メーカーの福島県の工場が操業停止となり、仕入れができなくなった。そこで関富薬品は東京電力に対し約4億円の損害賠償を求め、大阪地裁は、東京電力に対し約2千万円の支払いを命じた19。このように東京の会社が大阪のしかも直

元のページ  ../index.html#57

このブックを見る