cuc_V&V_第54号
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5623 日本工業標準調査会前掲書 p.80。会的責任」に含まれる項目について、全体の85.1%が「より良い製・商品、サービスを提供すること」と回答している。そして「企業の社会的責任」全般について、「行えている」(=「十分行えている」+「大体行えている」) と回答したのは全体の64.9%であり、その内63.4%が「企業イメージの向上」を取り組む目的・理由として挙げている。単純に考えれば、非上場会社の約4割が自社のイメージ向上のために、より良い製・商品、サービスを提供することを「社会的責任」と捉えて実行していると考えられる。確かに、本業を通じて「健康及び社会の福祉を含む持続可能な発展に貢献」することに繋がるのであれば上述した「社会的責任」の定義には当てはまらないと言えなくもない。しかし、「社会的責任」は実行したらそれでおしまいではない。JIS Z26000は「ボックス15-社会的責任に関する報告」の中で、「組織は,影響を受けるステークホルダーに対し,社会的責任に関する自らのパフォーマンスを,適切な間隔で報告すべき23」として、自社のホームページでの単なる自己アピールではなく、ディスクロージャーを求めている。しかし、アンケートの結果からは、非上場会社の多くが認識する「社会的責任」にはディスクロージャーという概念が欠けている。それゆえ、非上場会社へ「社会的責任」を求める声が強くなっても、非上場会社にとって会計ディスクロージャーを行うことには繋がらないのである。勿論、会計ディスクロージャーを行えば「社会的責任」を語る資格があるかといえば、昨今の上場会社の不祥事を見る限り、必ずしもそうとは言えない。また、法定の決算公告をしていない非上場会社が全て社会的に問題のある会社かといえば、そうとも言えない。しかし、決算公告はあくまでも法が定めたものであって、最低限のコンプライアンスの遵守であり、「社会的責任」の第一歩である。そういう意味で、非上場会社の殆どが法定の決算公告すらしていないということは、言い換えれば、非上場会社の多くは「社会的責任」を語る資格がないに等しい。しかし、非上場会社にとってそれ以上に注意しなければならないことは、「社会的責任」を求める声が高まれば高まるほど、土台であるコンプライアンス、とりわけ法令遵守が叫ばれるようになるということである。法令違反をしている会社へ融資することは、融資する金融機関にとってもコンプライアンスに抵触する。殆どの会社が決算公告をしていないからといって、法令違反であることには変わりない。もし金融機関が株主総会で「法令違反をしている会社へ融資をしてもいいのか」と問われたら、決算公告をしていない会社への融資に消極的にならざるを得なくなる可能性は否定できない。そのようなことになる前に、非上場会社は決算公告を行い、その他の計算書類等の開示についても「社会的責任」の一つとして行う覚悟が必要である。次に、非上場会社の会計ディスクロージャーが行われても生じ得る最も深刻な問題、すなわち「虚偽記載」について考察する。会計ディスクロージャーは行っているものの重要な事項が虚偽、つまり嘘の内容であり、それにより取引の相手方が損害を被った場合である。非上場会社は上場会社に比べ規模が小さい会社が多く、特に株主が社長一人のようなオーナー会社の場合、上場会社のような内部統制は期待できない。それゆえ、これまで会計ディスクロージャーを行っていなかった会社にそれを強く求めだすと、虚偽記載という副作用をもたらし得る。損害を被った相手方に対し、虚偽記載した会社が損害賠償を負えるならばまだしも、一般的には虚偽記載をするような状況では業績はかなり悪化しており、そのような体力は既にない。会社法は第429条第2項で虚偽記載により被害を被った相手方に対し、一定の条件の下、役員等に損害賠償責任を負わせることができるとしているが、現実的には機能しておらず期待できない。また、被害者を救済する制度もない。このままだと、非上場会社が「社会的責任」として、会計ディスクロージャーを行ったとしても、信頼性が全く担保されないことになる。1 海外の状況アメリカの場合、州毎に法制度が異なるが、全米の半数以上の会社が設立州としているデラウェア州の「The Delaware General Corporation Law」(デラウェア州一般会社法)では、そもそも計算書類等の作成は求められていない。一方ドイツでは、商法典の中に計算書類等の作成(ドイツ商法典第242条)、開示(同第325条第1項、326条)の規定があり、計算書類等に虚偽記載があった場合、その会社の代表権限を有する機関または監査役会の構成員に対し3年以下の懲役刑または罰金刑に処する(同第331条第1項)とされ、我が国の非上場会社3.虚偽記載と情報利用者の保護

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