cuc_V&V_第54号
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5724 参議院法務委員会で、政府参考人が「決算公告の義務違反というのはほとんどないというのが私どもの認識でございます。」と答えている。(参議院, 2005年6月14日, 「第162回国会 参議院法務委員会会議録第23号」P13参照)25 近江法律事務所ウェブサイト,中小企業の法律相談,「欠員取締役の選任手続きの放置」, https://www.oumilaw.jp/kouza/79.htmlの虚偽記載に対する行政罰が100万円以下の過料(会社法第976条第2号)であることと比べ厳しい。しかし、ドイツ商法典の中には、役員等の第三者に対する損害賠償責任の規定はなく、不法行為責任(ドイツ民法典第826条)の成否を争うことになる。2 会社法429条2項の裁判例の考察一般に、会社が破綻した場合には会社自体の責任を追及しても無意味であるが、一方で法人格否認の法理によって第三者を保護できる場合は限られている。この点、会社法第429条は、役員等の第三者に対する損害賠償責任を定めたもので、法人格否認の法理に代わる機能を果たしている。虚偽記載に対する債権者の保護規定は同条第2項に定められ、第1項が役員等に悪意または重過失があることを要件としているのに対し、第2項は、虚偽記載と情報利用者である第三者の損害発生との間に「相当因果関係」があれば、役員等は軽過失の場合でも責任を負い、かつ過失がないこと、すなわち注意を怠らなかったことを役員等の側で証明しなければ免責されない。このように虚偽記載に関しては、一般不法行為の場合とは逆に挙証責任が転換されている等、債権者等にかなり配慮した規定となっている。虚偽の計算書類等を信じて取引した第三者を保護するだけでなく、内部統制が効きにくい非上場会社のオーナーへの牽制にもなる重要な規定である。その点ではアメリカやドイツと比べて法制度が整っているといえる。しかし、同条第2項(改正前の商法第266条ノ3第2項を含む)で争った裁判例(公表されたもの)を調査したところ、十余件しかない。興信所の調査報告書を信頼した場合でも相当因果関係を認めているが(横浜地判 平成11年6月24日)、単に貸倒引当金を計上しなかっただけでは虚偽記載に当たらないとした事案(大阪地判 平成18年2月23日)や、虚偽記載があったとしても、当該会社の業績が悪化しつつあることを認識しつつ営業戦略等の見地から取引した場合は相当因果関係が認められないとした事案(東京地判 平成17年6月27日)、棚卸資産に虚偽記載があっても、その残高が高ければ一般的には資本回転率が悪く経営内容が悪いと判断できるのだから相当因果関係が認められないとした事案(山口地判 平成3年4月25日)等、裁判所が役員等の責任を認めない事案がほとんどで、認めた事案は、極わずかであった(大阪地判 昭和61年5月20日、横浜地判 平成11年6月24日)。裁判例では、虚偽記載であったとしても、その計算書類等の内容が業績悪化を示している場合は、相当因果関係を否定している。しかし、そもそも虚偽記載をすること自体が問題であり、虚偽記載をしても裁判で役員等の責任を認めない事案がこれ以上続いたら、非上場会社の会計そのものに対する信用を失い、「社会的責任」も有名無実化してしまう。したがって、会計ディスクロージャーの重要な事項に虚偽記載があった場合は、それ以降に取引をして損害を生じた第三者との間には因果関係があるものとして、注意を怠らなかったことを役員等の側で証明しない限り、役員等の責任を認めるべきである。3 罰則の実効性決算公告の懈怠や虚偽の場合は行政罰として100万円以下の過料に処すとされている(会社法第976条第2号)。しかし、実際に過料に処されたという話は聞かない24。殆どの会社が決算公告をしていない理由も実際のところここにあるものと思われる。では、なぜ行政罰(過料)が適用されていないのだろうか。決算公告の懈怠に対する現行の行政罰は、非訟事件手続法に基づき、民事事件として裁判所の職権により処理される。しかし、裁判所は自ら過料の原因となる行為を探すことはしないので、実際には行政機関が通報を行い、それに基づいて審理が開始される。例えば、取締役に欠員が出て選任手続きをしなければならないにもかかわらず放置し登記を怠った場合、それに気が付いた法務局の登記官が裁判所に通報し、過料に課せられた事例は現にある25。この点、決算公告の方法が登記事項であることからすれば、法務局の登記官がこれに気が付けば通報することになると考えられるが、登記官が一々それを確認するというのは非現実的である。したがって、システム的な手当てをしない限り、実効性は上がらない。4 被害者の救済制度と再発防止策の検討(1) 業界団体の弁済制度非上場会社の会計ディスクロージャーの信頼性を担保する仕組みとして、業界団体の弁済制度の活用は一つの解決策と考えられる。日本旅行業協会(JATA)の弁済制度がその一例である。しかし、あらゆる業界にこのような仕組みを導入することは現実的ではない。また、こうした不祥事を起こす会社のために真面目に経営している会社が負担した費用(保証金の分担金)が使われるとなれば、費用を負担する会社の経営

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