cuc_V&V_第54号
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5826 法と経済のジャーナル Asahi Judiciaryウェブサイト, 2011年1月11日,「虚偽記載の審査と上場廃止まで 上場管理の仕事」, https://webronza.asahi.com/judiciary/articles/2710122100007.html。27 角前掲書pp.240-242参照。者の理解も得にくいし、被害者が多数に及び被害額も多額の場合、民間だけで解決することは難しい。したがって、同条2項が適用されなかった場合、あるいは適用されても弁済額がわずかであった場合の救済制度は、健全な経済活動を行うための枠組みを統治する国の役割の一つとして検討すべきである。(2) 上場会社の仕組みと非上場会社の対応策上場会社の場合は、有価証券報告書に虚偽記載すると民事上の損害賠償責任(金融商品取引法21条の2)はもちろんのこと、刑事罰(金融商品取引法197条1項)と行政罰(金融商品取引法172条の2第1項、172条の2第2項)等、「会計ディスクロージャー」の信頼性を担保するための法制度が整っている。その上で、財務報告に係る内部統制が求められ(金融商品取引法第24条の4の4等)、虚偽記載を防ぐ仕組みが整えられている。しかし、それ以上に特筆すべきことは取引所の機能である。単に上場を廃止させるだけでなく、虚偽記載をした会社に対し、注意勧告を行い、その旨を公表し、また改善報告書を提出させ、その状況確認のための改善状況報告書を提出させる等、再発防止策を促す「仕組み」が出来上がっている26。もっとも、非上場会社の数、規模の大小等を勘案すると、取引所の代わりとなるような組織を新たに立ち上げるには、相当な人員が必要となり非現実的である。この点、全ての会社は確定申告をしなければならず、非上場会社の計算書類等は必ず「税務署」の目を通る。虚偽記載をした会社に対し注意勧告を行い、その旨を公表し、また改善報告書を提出させるとしたら、既存の組織では税務署にその機能を持たせることが現実的である。会的責任」に内包され、かつその土台である。この土台の上に「社会的責任」の7つの中核主題(組織統治、人権、労働慣行、環境、公正な事業慣行、消費者課題、コミュニティへの参画及びコミュニティの発展)が柱として載り、これを通じて持続的な発展に貢献する、という構造である。もっとシンプルに言えば、法令遵守やコンプライアンスは最低限の「社会的責任」なのである。「持続的な発展に貢献する」には、通常は相応の投資が必要であり、その実施を裏付ける計算書類等をステークホルダーに示すことは当該会社の説明責任であり、それゆえ会計ディスクロージャーは「社会的責任」の一つとして位置付けられる。非上場会社の会計ディスクロージャーを現行法の枠組みの中で定義すると、「決算公告」と「決算公告以外の計算書類等の開示」となり、前者は法定事項でありコンプライアンスに位置付けられる。会計ディスクロージャーを、民主主義社会を構成する一員として自由な取引をする「権利」に対する「義務」と捉えれば、「規範」であると導かれ、後者もコンプライアンスに位置付けられるが、後者までをコンプライアンス違反とすることはさすがに難しい。しかしながら非上場会社も「社会的責任」として会計ディスクロージャーを実施すべきである。そのためには会計ディスクロージャーの信頼性を担保し、決算公告の懈怠や虚偽記載の問題も解決できるような仕組みが必要である。非上場会社の場合、会計監査人設置会社はほとんどないため、会計監査報告を作成している会社はほとんどなく、監査役会もオーナー一族で行っているのがほとんどで、監査報告も形式的なものとなっており、実質的に機能していない。とはいえ、上場会社の財務報告に係る内部統制を非上場会社に適用することは現実的ではない。では、どのような対策をとるべきであろうか。まず、第一に対策すべきことは信頼性の確保である。そこで現行の監査報告・会計監査報告に代わるものとして、税理士等の第三者による確認をもって信頼性を最低限担保する「計算書類等確認書」の創設を提言する27。次に対策すべきことは、決算公告の懈怠という長期間の違法状態の解消である。これは商法施行から百余年続いている状態であり、もはや啓蒙云々という話ではなく、システム的に「強制開示」をすることにより解消する他ない。全ての会社は確定申告の際に計算書類等を税務署に提出する。そこで、税務署が申告書類の内、4.結論(政策的提言)本稿では、まず、「社会的責任」について世界共通のガイドラインであるISO26000を基に作られたJIS Z26000『社会的責任に関する手引』をベースとした。その内容は、「通常業務とは関係なく追加的に実施されるもの」ではなく、「通常業務の中で実現するもの」であり、かつ人権等も含み広範囲である。また、大企業のみならず、中小零細の非上場会社も対象である。その構造を、法令遵守・コンプライアンス・社会的責任にフォーカスして示すとすれば、法令遵守とコンプライアンスは「社

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