cuc_V&V_第54号
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5928 角前掲書pp.252-259参照。29 一般社団法人日本旅行業協会JATA ニュースリリース, 2017 年11 月16 日,「株式会社てるみくらぶの認証結果について」, https://www.jata-net.or.jp/wp/wp-content/uploads/administrator/171116_trmclbnnshreport.pdf。30 株式会社東京商工リサーチウェブサイト, 2018 年6 月29 日,「「はれのひ」が破産廃止」, https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20180629_01.html。31 Business Journal ウェブサイト, 2016 年1 月16 日,「はれのひ、不適切会計の疑い…売上も資本金も虚偽の数字を公表」,https://biz-journal.jp/2018/01/post_22013.html。32 参議院, 2005年6月14日,「第162回国会 参議院法務委員会会議録第23号」p.14。会計ディスクロージャー(決算公告)の対象となる計算書類等をPDFにして即、EDINETのホストコンピューターシステムにアップロードすることで、自動的にディスクローズされるシステムを提言する。上述の方法であれば決算公告と確定申告が連動され、決算公告の懈怠の問題も解決でき、別途開示する手間も省ける28。これと同時並行で進めるべき対策が、決算公告以外の計算書類等の開示の促進である。これは、法令ではないので、啓蒙活動を通じて、各社の自主性に期待することになる。決算公告以外の計算書類等の開示がない会社は、「社会的責任」を確り果たせていない、という見方が定着すれば、実施する会社も増えるはずである。しかし、上述したように本来的にはコンプライアンスに位置付けられるものであり、一定期間様子を見て実施する会社が少なければ、これらの計算書類等を決算公告の対象に含める、すなわち強制開示に移行することで「社会的責任」を果たすということも検討する必要がある。最後に、虚偽記載の罰則の強化と被害者救済の仕組みである。税務署に、追徴課税にならないような虚偽記載に気が付いた場合も裁判所に通報し (過料は裁判所が決定)行政罰の実効性を確保すると同時に再発防止策を提出させる「機能」を持たせる。その上で、虚偽記載した場合の行政罰の過料を現行の100万円から大幅に引き上げ、それを虚偽記載による被害者に分配する「仕組み」を構築することを提言する。税務署に行政罰の実効性を担保できる機能を持たせた上で罰則を強化することにより牽制機能を働かせると共に、過料を被害者救済に役立てることにより、会計ディスクロージャーの信頼性を向上させることに繋げるのである。社会問題にもなった、格安旅行業者の「てるみくらぶ」や、振袖の販売・貸出業者の「はれのひ」の事件は、未だ世間の記憶に新しいであろう。両社は共に非上場会社で、虚偽の計算書類等により金融機関から融資金を騙し取っただけでなく、顧客である多数の債権者に甚大なる被害をもたらした点で共通している。「てるみくらぶ」は債務支払の見通しが経たなくなったことから、2017年3月27日に東京地方裁判所に自己破産を申請して突如倒産した。ツアー代金を支払い、旅行を楽しみにしていた顧客は裏切られ、同社を通じて旅行中だった一部の顧客も支払い済みのホテル代を現地で請求される等大混乱に陥った。被害額が大きすぎて、会社法第429条第2項が仮に適用されたとしても現実的には債権者である情報利用者の保護にはならない状況であったが、同社は国土交通省の許認可が必要な旅行業であったことから、業界団体である日本旅行業協会(JATA)の弁済制度により、最終的に3.5%とはいえ一定額の弁済が行われた29。一方、「はれのひ」は2018年の成人式の日に一部の店舗を除き突然休業した。着付けを予約していた多くの若者やその保護者は大混乱に陥り、一生に一度の成人式を台無しにされた。「てるみくらぶ」と違い弁済制度もなく、「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足する」として破産手続きも廃止されてしまった30。同社は売上高や資本金を就職サイト等へ載せていたが、4億8千万円と記載されていた売上高は実際には3億8千万円で、1千万円と記載されていた資本金に至っては、実際には150万円しかなかった31。限定的とはいえ、会計ディスクロージャーを実施していたが、その内容は虚偽記載だったのである。同社の被害者の中にはその内容を信じて入社した者や、成人式の着物の着付けを予約して支払いを済ませていた者も少なからずいたと思われる。つまり、不特定多数の債権者等の情報利用者が虚偽記載により損害を被り、保護されなかったのである。以前、会社法制定を審議する参議院法務委員会で決算公告義務違反があった場合について、「過料を科す、その適用をこれからはやるようにならないのか」との議員からの質問に対し、当時の南野法務大臣は次のように答えている。「まずは関係者が決算公告の重要性に対する認識を深めて、各会社が自発的にこれを行うような環境をつくることに努め、その後の状況に応じて決算公告義務を怠る者に対して過料規定の実効性の確保も含めて適切な措置をとるように図ってまいりたいというふうに現時点で考えております。」(2005年6月14日)32非上場会社の会計ディスクロージャーに問題があった場合に損害を被る可能性は「全ての人」にあり、一義的には彼らが非上場会社に「社会的責任」を求めていくべきである。しかし、法律で定めた罰則すら実効性がない中でそれを実行することは現実的には難しい。この法務大臣の答弁から十余年が過ぎた。JIS

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