cuc_V&V_第54号
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235池の名となったジュンサイ。現在、池からは消滅しているが、池脇の水槽で保全・育成されている。池の環境が整い次第池への移植を試みる予定である。写真2図1 じゅん菜池プロジェクト参加主体と主な役割(杉田、2022)ない環境となり、これらの水草を新たに池に移植してもすぐに消滅してしまう状態が続いている。そこで、水質を改善し、本来の姿を取り戻した池を再生することを目的とした「じゅん菜池プロジェクト」が2018年に立ち上げられ、水環境ゼミナールも近隣教育機関の1つとして参加することとなった。「じゅん菜池プロジェクト」は行政、市民と近隣教育機関が教育、研究、啓発を含めながら互いにつながり、都市域に自然生態系を有するじゅん菜池を再生することを目的とした課題解決型プロジェクトである。プロジェクトの参加主体を図1に示す。活動の中核をなすのは「ジュンサイを残そう市民の会」という会員数100名を超す市民団体である。池周辺環境の整備、在来水草の育成・移植準備、アメリカザリガニの捕獲などプロジェクトで行う活動のほとんどはこの市民団体により企画・計画され、残りの参加主体が協力する形で実施されている。市民団体には戦後すぐからこの地に住み、池環境の変遷を実体験してきた人、長年にわたり地域の自然環境保全活動を続けてきた人など、かつての池環境を知る地元住民が多く所属しており、池に関する豊富な「経験知」を有していることが大きな特徴である。そのほか、昆虫、野鳥、クモ等、池とその周辺に生息する生物を専門とする会員も多く、小学生から80代まで、文字通り老若男女、仕事も経歴も多様な人の集団である。一方、池を管理する市川市は揚水井の維持・管理、桟橋の改修などインフラストラクチャーの整備を主に担当し、プロジェクトでは唯一大きな予算を持つスポンサーの役割を果たす。さらに絶滅危惧Ⅰ類に分類されて社会的注目度の高いイノカシラフラスコモの保全と育成のほか、市民の会とともに写真展の開催等、プロジェクト活動と一般市民の橋渡しも担っている。地域の教育機関の内、中等・高等学校は池での野外実習や市民の会会員を講師に招いた出前授業をおこなって次世代教育を担当する。大学は主に科学的調査を担当するほか、市民団体の企画による種々の活動に協力している。池におけるゼミナール活動は毎週1回、雨天の場合は中止となるので春、秋学期合わせて年に20回ほど実施される。各回の授業は池との往復、道具などの片づけ時間を除くと実質60分程の短時間での活動である。学生たちは池に到着すると体温測定、手指消毒等感染対策の後、市民団体と当日の作業について確認をおこなう。恒常的な作業として水質測定、野鳥調査、アメリカザリガニの捕獲調査、自然の池岸形成があり、そのほかに周辺環境整備として草刈りなど市民の会より実施を依頼された作業を手分けしておこなう。作業は2~3人の小グループに分かれ、毎週作業内容をできるだけ変更し、全員がすべての作業を体験することのみが決められている。そこで学生は自由にその日に行う作業を選びグループを形成して、協働で作業に従事する。各作業に必要な人数は季節、その日の天候、池の状況等により異なるため、学生たちは必要な人数配分等、自ら状況を判断して行う作業を決める。じゅん菜池プロジェクト活動を通した多様な学び

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