View & Vision No55
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12プロフィール千葉商科大学商経学部教授、博士(経済学)。専門は社会政策、社会保障。主要業績に、『どうする日本の福祉政策』(ミネルヴァ書房、2020年、共著)、『福祉政策研究入門 政策評価と指標 第2巻』(ミネルヴァ書房、2022年、共著)、「中国の社会扶助ー相対的貧困に向けて」『社会保障研究』第6巻第2号、単著)など。千葉商科大学商経学部 教授朱 珉ZHU Min習近平政権になってから、中国経済が「新常態」局面に入り、高度成長の時代が終わった。実際、2013~2021年の年平均成長率は6.6%に低下し、さらにゼロコロナ政策の堅持は中国経済に大きな打撃を与え、2022年の成長率は3%と過去2番目の低水準となった。一方、少子高齢化が急速に進んでいる。2021年に公表された人口センサスによると、2020年の中国の出生数は前年比2割減の1200万人で、合計特殊出生率は「異次元の少子化対策」が打ち出されている日本よりも低く、1.3にとどまった。65歳以上の高齢人口は2021年に2億65万人になり、総人口に占める割合は14.2%に達した。中国が高齢化社会になったのは2001年のことであり、つまり高齢化社会から高齢社会に移行する倍化年数は僅か20年で、日本の24年より短い。少子高齢化の進行は社会保険を中核とする社会保障を根底から揺るがしている。経済が失速したなかで、少子高齢化にどう対応するのか、中国の社会保障はいま難局に立たされている。中国現行の社会保障は2つの大きな問題を抱えている。1つは財源問題である。もう1つは制度間格差である。持続可能な制度にするためには、この2つの問題を解決しなければならない。その前に、なぜこのような問題が起きたのかを明らかにする必要がある。社会保障制度は時の流れのなかで形成・再編されているため、歴史的視点が今日の問題解明に有効だと考える。歴史的視点の意義について、小野塚が「いまだけに注目しても、いまはみえてこない」と喝破し、いまを理解するために、過去を知る迂回的な方法は2つあるという(小野塚2018、iv)。1つは起源・来歴方法で、現在の問題の起源を調べることによって、現在の問題をより確実に認識し、より適切な解決法を探ることである。もう1つは比較の方法で、過去と現在の社会経済を比較することを通じて、現在の問題を相対化し、現在の特質を炙り出すことである。本稿は前者の方法論に基づき、中国社会保障制度の形成過程から現行制度の問題点を説明する。以下で は、まず中国社会保障の現状を簡単に紹介したうえで(2)、その構築過程を振り返る(3)。つぎに、その形成過程が中国特有なのかどうかを韓国と比較する(4)。最後に、中国的制度設計がもたらす問題に触れる(5)。2011年に、中国では「皆保険・皆年金」を中核とする社会保障制度体系が成立された。現行の社会保障は大きく、正規被用者を対象とする従業員基本保険とその他非被用者を対象とする住民基本保険とに分けられる。成立してから10年が経った2021年現在、中国の基本医療保険の加入者は13.6億人、基本年金保険の加入者は10.3億人に達しており、いまや中国は世界151.厳しい財政はじめに中国社会保障の現状形成過程から中国社会保障の問題点を探る

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