View & Vision No55
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注:社会保障関連支出は「社会保障と就労」および「衛生健康」を合算したものである。出所:中国国家統計局『中国統計年鑑』各年版より作成。図1 全国一般公共予算における主要支出項目(2011~2020年)出所:中国国家統計局『中国統計年鑑』各年版より作成。図2 全国一般公共予算の収支状況(2000~2020年)出所:中国国家統計局『中国統計年鑑』各年版より作成。図3 従業員および住民年金の月額(2011~2020年)最大規模の社会保障制度体系を有するようになった。図1は全国一般公共予算(一般会計に相当)における主要支出項目の推移を表している。制度普及により、社会保障関係支出は2013年から一貫として最も多い支出項目となり、2020年現在、全国一般公共予算の21.1%を占めるようになった。しかし、全国一般公共予算の収支状況は楽観視することができない。2014年以降、財政赤字は明らかに拡大しており、2014年の1.1兆元から2020年の6.3兆元に増え、7年間で6倍以上に膨らんだ(図2)。また、中国では1980年代半ば以降、一貫して地方財政の支出が中央財政の支出より大きい。2010年代に入り、地方財政が全体支出の85%となり、中央財政の15%より圧倒的に大きくなっている(内藤2019、35-36)。社会保障費における地方と中央の財政負担も概ね7対3で、地方政府のほうが大きい。しかし、近年、地方政府の債務は拡大する一方である。財政部によると、2021年末に地方政府が抱える狭義の債務残高(一般債務残高と特別債残高の合計)は30.5兆元で、2017年の16.5兆元に比べ1.8倍に膨らんだ。「隠れ債務」を含めると、多くの地域で債務比率が警戒ラインに達しているとみられる(関2022、1)。社会保障には、所得を個人や世帯間で移転させることにより、格差を縮小し、国民の生活を安定化させる「所得再分配機能」がある。しかし、中国では社会保障の規模が拡大したものの、その再分配機能は限定的である。中国家庭所得調査のデータによると、2018年の当初所得ジニ係数は0.474であるが、社会保障による所得再分配後0.427に低下した。ジニ係数の改善度は、2013年の7.9%を上回り、9.9%となっているが、日本の30.1%(2017年)にはまだ遠く及ばない。再分配機能が弱いのは、従業員基本保険と住民基本保険との間にそもそも大きな格差があるからである。図3は従業員と住民年金の月額を示している。住民年金の月額は近年確実に引き上げられてはいるが、2020年現在、従業員年金の月額はなおそれの19.3倍である。また、都市と農村との給付格差も依然として残されている。2018年の中国家庭所得調査によると、都市の年金は年平均7000元であるのに対して、農村は800元に過ぎない。両者の差は約8.6倍であり、都市と農村の所得格差よりも大きい。医療に関しても、都市のほうが優遇されている。都市における1人当たりの医療投入は農村の1.68倍であるにもかかわらず、1人当たりの医療給付費は都市のほうが高く、農村の1.8倍となっている(李・陳・滕2021、39)。社会保障という言葉が中国の公式文書に登場したのは1980年代半ばである。市場経済が徐々に導入され、162.制度間格差1.計画経済期の「国家―単位」保障3中国版「皆保険・皆年金」の構築

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