View & Vision No55
22/50

4 2021年10月に、中国は不動産税の一部地域での試行導入を決めたが、コロナによる経済の低迷が続くなか、見送ることとなった。参考文献大泉啓一郎(2018)「老いていくアジア―人口ボーナスから人口オーナスへ」遠藤環・伊藤亞聖・大泉啓一郎・後藤健太編著『現代アジア経済論』有斐閣小野塚知二(2018)『経済史』有斐閣上村泰裕(2002)「台湾の国民年金論議・素描―グローバル経済のなかの後発福祉国家形成」『社会政策学会誌』7巻岳経綸(2010)「「建構社会中国:中国社会政策的発展与挑戦」『探索与争鳴』第 10 期岳経綸・方珂(2020)「福利距離、地域正義与中国社会福利的平衡発展」『探索与争鳴』第6期胡鞍鋼(1999)「跨入新世紀的最大挑戦-中国進入高失業階段」『中国人口科学』第 6 期金成垣(2022)『韓国福祉国家の挑戦』明石書店朱珉(2014)「中国―『単位』保障から社会保障制度へ」田多英範編著『世界はなぜ社会保障制度を創ったのか―主要9ヵ国の比較研究』ミネルヴァ書房関辰一(2022)「中国の地方政府が抱える債務、警戒ラインに」『アジア・マンスリー』9月宋暁梧(2018)「親歴労働就業与社会保障改革」中国経済体制改革研究会編『見証重大改革決策-改革親歴者口述歴史』社会科学文献出版社鄭功成(2021)「全面深化医保改革:進展、挑戦与縦深推進」『行政管理改革』10月内藤二郎(2019)「中国の財政を取り巻く状況と課題」『フィナンシャル・レビュー』第3号広井良典(2003)「アジアの社会保障の概観―『アジア型福祉国家』はあるのか」広井良典・駒村康平編著『アジアの社会保障』東京大学出版会李実・陳基平・滕陽川(2021)「共同富裕路上的郷村振興:問題、挑戦与建議」『蘭州大学学報(社会科学版)』5月2011年に、中国では「皆保険・皆年金」を中心とする社会保障制度体系が成立した。成立過程を振り返ってみると、東アジア的なプロセス、つまり都市労働者から農村住民、都市住民へと制度が拡大していったことが確認できる。しかし、計画経済から市場経済への体制転換にともない、「国家―単位」保障から社会保障への移行コストの未解決が社会保障財政に影を落とし、個人口座や任意加入といった中国的制度設計となった。それから約10年間経った。この10年の間、少子高齢化が一気に顕在化し、インフォーマル就労者も無視できない規模まで増加し、社会保障をめぐる社会・経済の環境が大きく変った。持続可能な制度にするために、まず財政の健全化が必要である。年金に関しては、2022年1月から従業員年金の積立金の全国統合が始まった。論争が絶えない医療保険の個人口座に関しては、制度の「内在的欠陥」として、改革ないし撤廃すべきとの意見が強くなっている(鄭2021)。インフォーマル就労者の従業員保険への参加は社会保険料の増収につながるが、雇用主負担がない分、個人の保険料がかなり高額になるのがネックである。そのほか、不動産税(日本の固定資産税にあたる)を含む税制改革も視野に入れるべきである4。つぎに、制度間格差を縮小する必要がある。特に住民保険の給付水準が低いため、国民の最低生活を確実に保障できるレベルまでに引き上げていくべきであるが、やはり財源の健全化なしではできない。2020年代に入り、中国はいきなり少子化、高齢化そして就労のインフォーマル化に同時に対応しなければならなくなり、社会保障は大きな再編を避けられない。後発国では、先進諸国に比べ経路依存的な制約が相対的に弱いがゆえに、挑戦しやすい側面もある(金2022)。中国の社会保障は今後どう変化していくのか、興味深く注視していきたい。206おわりに

元のページ  ../index.html#22

このブックを見る