View & Vision No55
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3 2016年に、経営学のトップジャーナルであるAcademy of Management Reviewにおいて、歴史と組織論に関する特集号(Special Topic Forum on History & Organization Studies)が組まれ、2020年には経営戦略論でも、Strategic Management Journalで、歴史と戦略研究に関する特集号(History and Strategy Research: Opening Up the Black Box)が組まれた。参考文献Chandler, A. D. (1962), Strategy and Structure: Chapters in the History of the American Industrial Enterprise, Cambridge, MA: MIT Press(有賀裕子訳『組織は戦略に従う』ダイヤモンド社, 2004). Chandler, A. D. (1977), The Visible Hand: The Managerial Revolution in American Business, Cambridge, MA: The Belknap Press of Harvard University Press(鳥羽欽一郎・小林袈裟治訳『経営者の時代(上・下)』東洋経済新報社, 1979).Chandler, A. D. (1990), Scale and Scope: The Dynamics of Industrial Capitalism, Cambridge, MA: The Belknap Press of Harvard University Press(安部悦生・川辺信雄・工藤章・西牟田祐二・日高千景・山口一臣訳『スケール・アンド・スコープ』有斐閣, 1993).Decker, S., Kipping, M., and Wadhwani, R. D. (2015), “New Business Histories! Plurality in Business History Research Methods”, Business History, Vol. 57, No. 1.The Editors (2017), “Debating Methodology in Business History”, Business History Review, Vol. 91, No. 3.Fridenson, P. (2008), “Business History and History”, Jones, G., and Zeitlin, J. (eds.), The Oxford Handbook of Business History, New York: Oxford University Press.de Jong, A., Higgins, D. M., and van Driel, H. (2015), “Towards A New Business History?”, Business History, Vol. 57, No. 1.Kipping, M., and Üsdiken, B. (2008), “Business History and Management Studies”, Jones, G., and Zeitlin, J. (eds.), The Oxford Handbook of Business History, New York: Oxford University Press.Maclean, M., Harvey, C., and Clegg, S. R. (2016), “Conceptualizing Historical Organization Studies”, Academy of Management Review, Vol. 41, No. 4.McCraw, T. K. (1988), “Introduction: The Intellectual Odyssey of Alfred D. Chandler, Jr.”, McCraw, T. K. (ed.), The Essential Alfred Chandler: Essays Toward a Historical Theory of Big Business, Boston, MA: Harvard Business School Press.Selznick, P. (1957), Leadership in Administration: A Sociological Interpretation, Berkeley & Los Angeles, CA: University of California Press.安部悦生(2004)「経営史におけるチャンドラー理論の意義と問題点:チャンドラー・モデルはアウト・オブ・デイトか?」『経営論集』第51巻、第3号。安部悦生(2019)『経営史学の方法:ポスト・チャンドラー・モデルを求めて』ミネルヴァ書房。黒澤隆文・久野愛(2018)「経営史研究の方法・課題・存在意義:英語文献における研究動向と論争(上)」『経営史学』第53巻、第2号。酒井健・井澤龍(2022)「経営・組織論研究における歴史的転回:その軌跡と針路」『組織科学』第55巻、第4号。鈴木良隆(2015)「経営史の方法」経営史学会編『経営史学の50年』日本経済評論社。中川敬一郎(1981)『比較経営史序説』東京大学出版会。橋本輝彦(2007)『チャンドラー経営史の軌跡:組織能力ベースの現代企業史』ミネルヴァ書房。ヘンリー・ミンツバーグ&ブルース・アルストランド&ジョセフ・ランペル著(齋藤嘉則監訳)(2012)『戦略サファリ:戦略マネジメント・コンプリートガイドブック(第2版)』東洋経済新報社。森川英正(1981)『日本経営史』日本経済新聞社。米川伸一(1973)『経営史学:生誕・現状・展望』東洋経済新報社。米倉誠一郎(1994)「経営史学への招待:歴史学は面白い」『一橋論叢』第111巻、第4号。する経営史の方法はその初期において、個別企業の歴史の解明からはじまり、複数事例の体系的な比較検討へと進展した。後者については、特にチャンドラーによる貢献が大きく、そうした比較研究から理論を導き出そうとする方法の成果は、経営史だけでなく、経営学や経済学といった隣接分野の研究にも大きな影響を与えた。近年になると、経営学の科学化傾向を踏まえ、厳密に社会科学に接近するような仮説検証型のアプローチが提示される一方で、様々な認識論的・存在論的な立場で、むしろ人文科学としての歴史に注目する経営学・組織論における歴史研究が展開されるなど、その方法は多様になっている。なかでも、経営学・組織論における「歴史的転回」という流れは、経営史の隣接分野での歴史研究への関心の高まりを表しており、また、この流れ以外にも、経営学や経営戦略論のトップジャーナルで歴史に関する特集号が組まれるなど、経営学と経営史の境界領域の研究は増加している3。こうした歴史研究への関心の高まりを踏まえて、今後は経営史家側からも、より積極的に経営学や組織論といった社会科学に接近する姿勢が求められるだろう。経営史という学問の性質上、歴史研究として資料に基づく丹念な事例研究は当然欠かせないが、同時に経営学に隣接する領域として、そのテーマや問題意識を、より現代的な経営・組織の現象から求めることも必要である。現代の経営現象や諸理論に関する問題から出発し、そこに至るまでの過程を歴史研究として長期にわたって検討することで、因果の連鎖やその累積、様々な因果関係の解明につながり、それをもって諸理論や様々な問題に貢献しうる知見が得られると考えられる。本稿で検討してきたように、現在の経営史研究の方法は多岐にわたっているが、方法が多様であることが対話や議論を促し、さらに、そうした内部での対話や議論を踏まえて、経営学をはじめとした社会科学との対話や知的交流を継続させていくことが、それぞれの学問を発展させることにつながるのである。25

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