View & Vision No55
35/50

ⅶ FIFA公式twitter  https://twitter.com/FIFAcom/status/1598702636450123777ⅷ 日本経済新聞WEBSITE「スーパーシュートが出やすい? サッカーW杯公式球に迫る」  https://www.nikkei.com/telling/DGXZTS00002850R11C22A1000000/える。こうして行き過ぎた勝利至上主義の先に、体罰や暴力といったものが横行したり、最終的な被害者としてスポーツを愉しめなくなってしまう生徒たちが生まれたりしていることは悲しい事実である。本来こういう問題に対して機能すべきなのがマスメディアであるが、メディア自体が主催者側に名を連ねていることで、結果的に健全な議論を行うための場を提供しづらくなっているとすればやはり問題であるといえよう。今回のワールドカップで日本国内でも大きな話題となった出来事の1つが、いわゆる「三笘の1ミリ」である。グループリーグ最終戦となった日本対スペイン戦。1―1で迎えた後半6分、堂安律が右サイドからのシュート気味に放ったセンタリングはゴール左に逸れたが、ゴールラインを越えたかどうか微妙なタイミングでスライディングした三笘薫が左足でゴール前に折り返すと、走り込んだ田中碧がゴールに押し込んだ。問題は、三笘が触れる前にボールはゴールラインを割っていたのか、だった。判定はVAR(Video Assistant Referee)、いわゆるリプレー検証に委ねられた。微妙なジャッジゆえに2分ほど時間がかかったが、最終的にラインを割っていないという判定が下り、2−1と日本の逆転が認められた。その後、スペインの攻撃を押さえ逃げ切った日本は、この大金星によってグループリーグ首位通過を決めたのである。微妙な判定だったゆえに、インかアウトかは試合後も世界中のSNS上で大きな話題となったが、FIFA公式Twitterアカウントが当該シーンを撮影した動画を添えて「Other cameras may offer misleading images but on the evidence available, the whole of the ball was not out of play.(他のカメラは誤解を招く画像を提供するかもしれないが、入手可能な証拠では、ボール全体がプレーから外れていたわけではない)」ⅶとツイートし、改めてVARの判断が正しかったことを追認した。2018 FIFAワールドカップロシア大会から導入されたVARシステムは、今大会でさらに強化された。各方面から撮影される映像だけでなく、今大会の公式球「アル・リフラ」自体に埋め込まれたチップと12台の8Kカメラとの連動によってラインオーバーやオフサイドなどの判断ができるようになり、これまでの際どいプレーがさらに精密に判定できるようになったのであるⅷ。判断を機械に委ねることはスポーツがもつ人間らしさを失わせるといった否定的な意見や、プレーが中断されることで試合の流れが分断されるデメリットなどもある一方で、より精密な判定が可能になることで結果的にプレーヤーやファンにとって高い納得感が得られるというメリットがあるのも事実だ。このように、スポーツの現場では、AI、機械学習、IoTなどさまざまなテクノロジーが積極的に活用されつつあり、ニーズは高まるばかりである。その主目的としては、前述の「ジャッジのサポートや誤審の予防」のほか、「競技パフォーマンスの向上(ギア等の機能向上/アスリートの技術力強化)」「チーム力強化に関するデータ解析」「対戦相手分析・戦術立案」などが挙げられよう。メジャースポーツはもちろん、あらゆるスポーツでテクノロジーが求められており、多様な競技においてデータアナリストなどのニーズも増えている。より高いパフォーマンスを求めるアスリートにとっても、スポーツを観て愉しむファンにとっても、テクノロジーによってスポーツの環境や価値観にも変化がもたらされつつある。スポーツビジネスの領域でも、テクノロジーに関する注目が高まっている。NFT、ファントークン、スポーツベッティング、ファンタジースポーツなど、いわゆる「スポーツDX」によってファンエンゲージメントを高め「スポーツで稼ぐ」ことへと結びつける動きが急速に進んでいる。NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)などのブロックチェーン技術はその代表格である。NFTとは、「偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデ331)「三笘の1ミリ」とテクノロジー2)スポーツビジネスを活性化させるスポーツDX2.スポーツとテクノロジー

元のページ  ../index.html#35

このブックを見る