View & Vision No55
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ⅹⅹ オリンピック憲章Olympic Charter2021年版ⅹⅹⅰ 和田浩一『嘉納治五郎から見たピエール・ド・クーベルタンのオリンピズム』(金香男編『シリーズ・ワンアジア──アジアの相互理解のために』所収、創土社、2014、P180)ⅹⅹⅱ 日本スポーツマンシップ協会公式サイト ⅹⅹⅲ 阿部生雄『近代スポーツマンシップの誕生と成長』筑波大学出版会、2009、P5  https://sportsmanship.jpn.com/ https://sportsmanship.jpn.com/FIFAワールドカップは、サッカーによる国の威信をかけた戦いである。各大陸の地域予選を勝ち抜き、本大会のグループリーグを突破し、そして決勝トーナメントを勝ち抜き、「ジュール・リメ・トロフィー」と呼ばれるワールドカップを手に入れるべく頂点をめざす。勝利こそがすべてという大会である。一方、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で史上初めて1年の延期となり2021年に開催されたのが東京2020大会だった。1年延期後も感染拡大は収束せず、東京都をはじめ国内各地に緊急事態宣言が発令される中だったが、オリンピック・パラリンピックともに無観客で行われる形で実施された。オリンピックの特徴は、理念「オリンピズム」の普及こそが最大の目的だという点にある。オリンピズムについては、オリンピック憲章の中で以下のように示されている。  オリンピズムは肉体と意志と精神のすべての資質を高め、バランスよく結合させる生き方の哲学である。オリンピズムはスポーツを文化、教育と融合させ、生き方の創造を探求するものである。その生き方は努力する喜び、良い模範であることの教育的価値、社会的な責任、さらに普遍的で根本的な倫理規範の尊重を基盤とするⅹⅹ。この「オリンピズムの根本原則」がオリンピック 憲章の冒頭で示されたのは1991年6月16日発効版以降であり、近代オリンピックの父と呼ばれるピエール・ド・クーベルタン自身が定めたものではない。しかしながら、クーベルタンが語ったとされる「他人・他国への無知は人々に憎しみを抱かせ、誤解を積み重ねさせます。さらには様々な出来事を、戦争という野蛮な進路に情け容赦なく向かわせてしまいます。しかし、このような無知は、オリンピックで若者たちが出会うことによって徐々に消えていくでしょう。」ⅹⅹⅰという言葉の本旨はまさに「無知を克服することで、それぞれの理解を深め合い、世界平和を成し遂げたい」という想いにたどり着く。それは、オリンピック憲章に示されるオリンピズムと重なるものであり、この理念こそがオリンピックの根幹にあることは確かだといえ よう。筆者は、仲間たちとともに、2018年に日本スポーツマンシップ協会を設立した。誰もが知っている言葉でありながら、説明することが困難な不思議な言葉「スポーツマンシップ」。しかしながら、そこにこそスポーツの本質的価値があり、私たちがよりよく、よりかっこよく生きるために必要な要素が詰まっていると考えられる。だからこそ、スポーツマンシップを明らかにするとともに、その理解、実践、普及、推進を通して、よりよき人を育み、よりよき社会づくりに挑戦したいというのが本協会の設立趣旨であるⅹⅹⅱ。スポーツはゲームである。ゲーム―すなわち、スポーツは遊びであるというのが大前提だ。Sportsの語源は「deportare」というラテン語であるとされるのが定説であり、「運び去る、運搬する」という意味が転じて「遊ぶ、気晴らしによって元気を回復する」といった意味をもつようになったⅹⅹⅲ。スポーツが遊びであるという前提は、語源からも担保されているわけである。スポーツをしていて最高の喜びが勝利であるといえよう。ゲームを通して対戦相手と競った上での「Win」としての勝利もあれば、「成長」「上達」「達成」といった言葉に通じる自分自身の中での勝利もある。しかしながら、スポーツにおいて、ただ「勝てさえすればいい」という考え方は、スポーツ本来の価値を失わせる。一方で、ただ「愉しめればいい」というわけでもない。勝利をめざす「真剣さ」と「愉しさ」の二兎を追って両立させ「Good Gameをめざして愉しむ」ことがスポーツの本質であるといえよう。Good Gameを実現するためには、真剣なプレーヤーと公平なルールと誠実な審判を「尊重」した上で、自ら「勇気」を奮ってプレーに挑み、さまざまな困難をも愉しみながら全力を尽くす「覚悟」が求められる。これら3つのキーワードは言い換えれば、「自分自身で361)オリンピックの理念「オリンピズム」の重要性2)スポーツマンシップの重要性4.「勝ち」を超える「価値」づくり

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