View & Vision No55
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ⅹⅹⅴⅰ 日本オリンピック委員会公式サイト【北京2022冬季オリンピックスペシャルインタビュー】小平奈緒:オリンピックに学ぶ  https://www.joc.or.jp/news/detail.html?id=15139を覚えた方も多いことだろう。筆者は、東京2020大会では69人、北京2022冬季大会では22人の日本人メダリストにインタビューをする機会に恵まれた。アスリートたちの勇気あふれるパフォーマンスが素晴らしかったのはもちろんのことだが、彼らが口にした言葉の数々に共通して印象的だったのは、大会関係者やボランティアなど、難しい環境下で開催実現にあたって尽力された人々に対する感謝の想いと、開催に対して賛否両論あった大会に挑む覚悟だった。そのような中で、2022年10月に最後のレースを終え惜しまれつつ引退した小平奈緒の言葉も印象深かったので記しておく。これは、2018年平昌オリンピックに続く連覇を期待されて挑んだ北京2022オリンピックを終えた直後、4年ぶりにインタビューをさせていただいた際の言葉である。  オリンピックは、メダルや順位がものすごく世間の評価になるという見方もありますが、私は、自分がどれだけこの舞台で納得できるかを大事にしてきました。私にとってのオリンピックは、自分自身の成長を確認する場所であり、周囲の皆さんと歩んできた道のりを包み込むような場所であり、世界中の競い合う仲間たちとつながる場所であり、応援してくださる皆さんとつながる場所であり、そして、一番大好きなスケート自体とつながる場所である、そう感じていますⅹⅹⅴⅰ。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会終了から1年が経った2022年8月。大会組織委員会の元理事が、大会スポンサー企業からの受託収賄容疑で東京地検特捜部に逮捕された。スポンサーをはじめ、関係する広告代理店、公式ライセンス商品製造販売会社などを対象に捜査が続けられており、依然として逮捕事案も増え続けているのが現状だ。東京2020大会における汚職が表出したことで、改めてスポーツビジネスの実態が問題視されている。アスリート、スポーツ関係者による犯罪や不祥事も枚挙に暇がない。また、指導者における体罰・暴言・ハラスメント等の問題や、それに伴って若年層アスリートが自死に追い込まれるといった痛ましい事件も未だしばしば目にするのが事実である。さらには、さまざまな競技において若年世代における全国大会開催の要否などが問われている。その根幹にあるのは、教育者のマインドセットの問題と同時に、本稿でも繰り返し指摘してきた勝利のみをめざすあまりの「行き過ぎた勝利至上主義」がもたらす弊害に対する危惧である。1927年、文学博士の遠藤隆吉は、退廃した商業道徳を正すために武士道精神の注入を商業教育の基本に据え、学問においては社会に役立つ実学を、人間形成においては治道家の育成を教育理念として、千葉学園の前身である巣鴨学園を創設した。スポーツの現場はもちろんのこと、「稼ぐ」ことが求められるスポーツビジネスの世界においても、今後ますますスポーツマンシップの理解と実践への要請が高まっていくと考えられる。換言すればそれは、これからのスポーツビジネス界に治道家の存在が欠かせないということでもある。2023年はバスケットボールワールドカップがインドネシア・日本・フィリピン共催で、ラグビーワールドカップがフランスで開催される。ともに大きな注目を集めるだろうが、さまざまな観点からスポーツビジネスのあるべき姿を考え、筆者自身、自らできることを尽くしていきたい。課題山積であることも見方を変えれば、成熟しつつあるように感じるスポーツ界、スポーツビジネス界も、まだまだ改善できるポテンシャルにあふれているととらえることもできるのである。38さいごに

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