View & Vision No55
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千葉商科大学国際教養学部 准教授常見 陽平TSUNEMI YoheiプロフィールいしかわUIターン応援団長/働き方評論家/朝日新聞デジタル・ヤフー・ジャパン公式コメンテーター一橋大学商学部卒。リクルート、バンダイ、ベンチャー企業に勤務後、一橋大学大学院社会学研究科修了(社会学修士)。官公庁、自治体の委員などを歴任。主な著書に『「就活」と日本社会』(NHK出版)『なぜ残業はなくならないのか』(祥伝社)など。人はどこで、どのように働くのか。今、我が国のビジネスパーソン、企業、自治体が直面している問題である。2010年代半ばから国をあげたチャレンジとして取り組みが始まった「働き方改革」さらには2020年に世界を襲った「新型コロナウイルスショック」による働き方の見直しの中、働き方の選択肢が広がったかのように見える。感染症対策と経済活動の両立のためにテレワークが広がりを見せた。このテレワークの拡大が働き方の選択肢を増やしている。NTT グループなどのように、転勤の廃止、居住地の自由化などを打ち出す企業も現れた。観光地など滞在先で働くワーケーション、出張先で休みを楽しむブレジャーなどの働き方、休み方も話題となった。国をあげて副業・兼業を推進する動きもあるが、テレワークによって都市部にいながらにして故郷で副業をする「ふるさと副業」というワークスタイルも現れた。各種メディアでは「東京を捨てた」若者や、「田舎暮 らし」を選んだ家族たちが紹介される。移住者コミュニティとなっているコワーキングスペースで交流する人、東京で学んだスキルを活かし地域に貢献する人、実家に戻り幼少期に過ごした部屋を改装しテレワークをして月に数回東京の本社に出勤する人などの様子を見かけたことのある人も多いことだろう。さらには、都市部に住んでいた頃よりも明らかに広い家に自治体の支援を受けつつ住み、自宅の畑でとれた野菜や地場の名産品でつくった料理を堪能している姿が紹介され、クオリティ・オブ・ライフの高さがアピールされる。「地方創生」が何度も叫ばれる。都市部への人口流出と自然減などにより、地方の人口減少が深刻な問題となっている。首都圏、なかでも東京への一極集中は、災害などのリスク対策の視点からも問題視される。最近でも人材ビジネス大手パソナが淡路島に拠点を設け、大人数の従業員が移住した。サザン・オールスターズ、福山雅治、星野源など人気アーティストが所属するアミューズが山梨に本社を移転した。首都圏でも、二子玉川にオフィスを構える楽天、所沢に本社を構える KADOKAWA などの動きが目立つ。これらの地方・郊外シフトの「光景」が現実に存在することは間違いない。ただ、「都会を捨てる」「地域への貢献」「豊かな田舎暮らし」という実態が「移住」の一般的な姿なのだろうか。結論からいうと、これは極めてレアな光景である。その光景がメディアを通じて一般化されることに私は危機感を抱いている。このような報道は移住を盛り上げるようで、移住後のミスマッチを誘発するリスクを秘めている。私は学外の活動で地方中堅・中小企業の人材マネジメント力強化に取り組んでいる。2015年から石川県内の人事担当者向けワークショップ「いしかわ採強道場」の講師を務めている。他の自治体も含め、企業の人材マネジメント力、なかでも採用力の強化に関し39牧歌的な移住幻想をこえて問題意識:UIターンと、地方企業の採用活動の現実を考える地方企業の採用活動を考える

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