View & Vision No55
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て講演をする機会も多い。2016年より「いしかわ UIターン応援団長」を拝命している。また、2022年には北海道への UI ターン転職に特化した人材紹介会社リージョンズ株式会社とともに、『北海道 UI ターン白書2022』を発表した。本稿では、この地方企業の採用に関する私の一連の取り組みを振り返りつつ、採用の現場から見た地方企業や UI ターンの現実について考えたい。リージョンズ株式会社は2008年に創業した、北海道へのUIターン転職に特化した人材紹介会社である。創業者であり、代表取締役社長の高岡幸生氏は北海道出身で、札幌西高等学校、北海道大学を卒業し、株式会社リクルートに入社し、同社の人事部採用担当を経て、求人広告の営業を担当した。主に地方の拠点で営業を統括するマネジャー職を務め、リクルート時代の後半では地方の求人広告の営業を統括するポジションにいた。地方企業の採用活動の支援を行う過程で、東京を中心とした都市部に見劣りのない企業を求職者に紹介できないかと考え、札幌にて起業した。創業15年を迎える前に、これまでの成果をまとめ発信すること、UI ターンの現状を世に問うために、同社は2022年12月に『北海道 UI ターン白書2022』を発表した。私は監修という立場でサポートした。構想は2019年より始まり、新型コロナウイルスショックなどの影響により中断しつつ、完成した。この白書は同社の2012年から2022年の人材紹介の実績などをもとに、北海道への UI ターンの実態をまとめたものである。あくまで、同社の紹介実績をもとにしたものではある。採用の手段は、求人広告などの「メディア」、人材紹介などの「エージェント」、求職者にオファーを出す「スカウト」、さらに従業員からの紹介などによる「リファラル」に区分される。これらの採用手段を網羅的に捉えたものではないことをお含みおき頂きたい。また、1社の紹介実績をもとにしたものなので、この企業の経営戦略、商品サービスの特徴がデータに影響を与える。とはいえ、10年間にわたり記録した貴重なデータではある。いくつかのデータを確認してみよう。求職者はなぜ、UIターンをするのだろうか。「自身の親の病気または将来不安」が25.0%、「配偶者の親の病気または将来不安」が13.5%と、親の老後ケアがUIターン理由の38.5%を占め、トップとなっている。「結婚を機に地元へ帰りたい」の7.8%、「地元で子育てしたい」の3.8%と合わせると「家族事情」が50.1%となっている。他の選択肢では「出身地だから/いつかは帰りたい」が25.0%、「北海道にIターンしたい」が17.3%と続く。これらは前述した地元への貢献、クオリティ・オブ・ライフが高い生活を求めたものと解釈できなくはない。もっとも、「家族事情」が上回っていることは揺るがない。なお、「北海道にやりたい仕事があった」は5.8%だった。「家族事情」でのやむを得ない事情から北海道にUIターンしている状況が伺える。冒頭でふれた、メディアで紹介される求職者が「都市部で身につけた力を地元に還元する」「クオリティ・オブ・ライフの高い生活を実現する」ためのようなポジティブな目的でUIターンをしているわけではない。なお、北海道の中でも札幌市は全国7大都市の一つとされ、言うまでもなく大都市である。他の市町村を合併していることや、北海道内での「札幌一極集中」が進んでいることからも、人口は明治時代から2021年までは増え続けてきた。札幌駅前から大通公園、狸小路にかけてオフィス街が広がっている。全国屈指の繁華街、歓楽街であるススキノもある。「地方にUIターンする」という言葉と、前述したようなメディアで紹介される光景から、いかにも牧歌的な田舎の風景とスローな暮らしを想起するかもしれないが、現実は異なる。自らの意志ではなく、家族の事情で帰らざるを得ない人が多くの割合を占める。また、「地方」と「田舎」は概念が明確に異なる。イメージと実態の乖離をまず確認しておきたい。この白書において、注目するべきトピックスは求人における待遇改善の動きと、年齢制限の緩和である。ともに、人材に関する飢餓感が伺えるトピックスである。待遇改善の動きについて、2012年から2022年にかけてのUIターン転職決定者の平均年収を比較してみよう。2012年の北海道へのUIターン決定者の平均年収40『北海道UIターン白書2022』から見えた「家族のためのUIターン」という現実採用氷河期を乗り越えるために待遇改善がマスト

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