View & Vision No55
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(転職時に提示された年収)は378.6万円から545.6万円へと167万円、44.1%増加している。なお、2022年はUIターン決定者のうち、年収600万円以上の人の比率が48.0%となっている。また、新型コロナウイルスショック前の2019年と2022年を比較すると500.6万円から545.6万円となり、45万円、8.9%増加している。UIターン転職決定者の平均年収が上がった背景には、中途採用市場における提示年収そのものが上昇している流れが関係している他、これまでは入社して成果を出してから年収を引き上げていたのが、入社と同時に高い年収を提示するようになったことが影響している。また、中途採用において管理職や、DX、事業開発など高度な専門スキルを持つ人材の採用が増加していることも要因としてあげられる。UIターン転職決定者の平均年齢も上がっている。 2012年の段階ではUIターン転職決定者の平均年齢は32.3歳だったのだが、2022年は39.5歳となり、7.2歳上昇している。また、決定者のうち35歳以上の比率が68.0%に達している。要因として、若年層の人口が減少しており、採用が困難となっていることがあげられる。また、前述したように、管理職や高度な能力を持つ専門職の採用が増えていることなども影響している。このUIターン転職決定者の平均年収アップと、平均年齢の上昇からは、人材の採用にかける企業のなりふり構わない姿勢が垣間見られる。高度な専門性の高い人材を採用し、ビジネスを進化させようという意図が存在する。一方、冒頭で触れたような、地方でのクオリティ・オブ・ライフの高い、スローな生活とはまったく異なる世界が広がっているようにも見える。次に、石川県における地元の中堅・中小企業の採用力養成ワークショップ「いしかわ採強道場」について紹介しよう。この施策は2015年よりスタートし、これまで8期実施された。私は立ち上げ当初から講師を担当している。1期4~6回シリーズの講座を県内企業は無料で受講することができる。採用活動の基本から応用までを学び、自社の採用戦略の立案を行うまで、やりきる。「セミナー」「講座」などではなく、「道場」としたのは、単にノウハウを学ぶ場ではなく、そのノウハウを実践すること、互いに教え合うことを意識したからだ。本学が入試広報などで打ち出している「やってみるという学び方」と根底にある考えは近いと言えるだろう。これまで10年以上にわたって、地方自治体や商工会議所などで採用活動のノウハウセミナーの講師を務めてきたが、参加者の中にはセミナーで紹介される知識やノウハウをどう活かすのかを考えず、単に情報収集の場だと捉える人たちが散見された。「ウチの企業には当てはまらない」などとアンケートに書く参加者もいた。いかにして、自社に活かすかを考えることがポイントであることは言うまでもない。そのために「道場」を名乗り、やってみせ、やらせてみせる指導を心がけた。8期の中で、プログラムは少しずつ変化している。特に4回目から「経営者インタビュー」という企画を盛り込んだのは大きな変化だ。100人程度の企業でも、経営者との接点が薄い場合がある。中堅・中小企業の採用活動は人事部だけでは完結しない。経営陣も現場も巻き込んだ活動にしなくてはならない。しかし、忙しさへの配慮も含めて、そのような巻き込みができない人事担当者が多数いた。結果として、ますます忙しくなる。人事部だけで採用戦略を立案し、採用活動を行うと、全社の方向性を俯瞰した上での採用戦略にならないことがある。さらに、人材不足が深刻化する中、採用活動のための予算や人員の見直しも必要となってくる。経営者へのインタビューを通じて、採用の現場の問題を共有し、採用活動に対する問題意識や危機感を高め、リソースの強化を行うことも意識した。地方の中堅・中小企業は、いわゆる同族経営であることも多いが、そうであるがゆえに、企業の歴史や理念、数々の武勇伝などを聞くこともできる。これらは採用広報活動においてアピールポイントにすることもできる。これを機会に、採用担当者と経営者の接点が強くなり、相談しやすい関係となった。求職者のことを深く知る機会も設けている。年によっては、石川県内の大学生を集め、交流の機会を設けた。就職活動で接する求職者だけを見ていては、深い理解は進まない。求職者としてだけでなく、生活者としても捉え、価値観などを確認しなくてはならない。さらに、企業が「よかれ」と思っていることが裏目に出ることがある。求職者の価値観は常に変化す41いしかわ採強道場の8年間

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