View & Vision No55
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る。プレゼンテーションの仕方もだ。YouTubeやTikTokに慣れている若者にとって、企業説明のプレゼンテーションは冗長に感じるかもしれない。企業の人事担当者と学生が会議室の中で、車座で語り合う企画を設けた。企業紹介のプレゼンテーションを学生に見てもらい、建設的な提案をしてもらう場もつくった。そもそも、中堅・中小企業の採用担当者は求職者との接点が少ない。そうであるがゆえに、学生よりもむしろ緊張してしまうこともある。届く言葉でプレゼンテーションできない。学生からは容赦ない「ダメ出し」の言葉が飛ぶ。どちらが上の立場かわからない状態にもなるが、これでこそ「道場」なのである。学生も、企業側の採用活動の悩みを知ることができ、就職活動の悩みを解消できる。初期には、金沢工業大学の見学ツアーも実施していた。地元企業にとって、金沢工業大学は重要な採用ターゲットとなっている。同校のキャリア形成支援や就職支援の実態だけでなく、日々の学生生活を広く深く理解することにより、求職者の理解を深めた。このように、実践的なプログラムで採用力を高める工夫をしている。まさに「道場」であり、互いに高め合うこと、「わかる」だけでなく、「できる」ようになること、「やる」ことを意識したものになっている。「いしかわ採強道場」で注力しているのは、企業の魅力抽出である。求職者にとって、自社の魅力は何か。徹底的に事実を棚卸しし、意味づけをすることに時間をかける。魅力のない企業などない。抽出と意味づけが弱いのだ。地方の中堅・中小企業が陥りがちなのは「アットホームな会社」をアピールポイントにしてしまうことだ。このような言葉を使う採用担当者を笑ってはいけない。本人なりに、一生懸命考えたのだろう。たしかに、中堅・中小企業は経営者も含め、人と人との距離が近く、雰囲気もあたたかいという企業も多く、それを表現しようとしたのだろう。ただ、これは何を言いたいのかまったくわからない上に、求職者にとっても魅力に感じないものである。アットホームという言葉自体、曖昧でどのような雰囲気をさすのかがわからない。そもそも「ホーム」のあり方も、各家庭によって異なる。仮に前述したように、社員同士の距離が近いことや仲がよいことをアピールしたのだとしても、そのような距離の近さは必ずしも若年層の求職者には支持されない。「アットホーム」という言葉を手放して、具体的な事実やエピソードを語るのなら、よくわかる。たとえば、「社長室なし。新入社員と社長が机を並べて働く会社」「大雨の日に、タクシーで帰れと領収書を切らせてくれる社長」「失恋を打ち明けたら、社長も部長も課長も朝まで飲みに付き合ってくれた」「書いた企画書を先輩3人が添削してくれる職場」などなら、まだわかる。さらには、採用広報活動においては、どのような求職者を採用したいかを意識したものにしなければならない。とりあえず魅力を羅列しただけでは意味がない。前述したような、「アットホームな社風」のような訴求をすると、受け身の姿勢の求職者が応募してくるリスクがある。企業の採用活動の成否を握るのは、企業力×採用力の掛け算だ。企業力については、たしかにもともとの企業規模、知名度、業績などは影響する。ただ、大手企業においても、BtoBの企業などは必ずしも求職者に知られていない。また、消費者として認知する企業像と、企業の実態は乖離していることがある。たとえば、就職活動を始めたばかりの学生は、大手企業の富士通や日立製作所の実態さえ理解していない。いまや全社の中では売上の柱となっていない商品・サービスを想起する。つまり、大手企業でも企業の魅力の抽出が不十分であることはよくある。「何でもないような事が 幸せだったと思う」はTHE虎舞竜のヒット曲「ロード」のサビの歌詞だが、実は中堅・中小企業の魅力とは、本人たちが日常の業務では気づかないような、忘れているような、何でもないようなことなのだ。求人広告関係者の間で未だに語り継がれている事例がある。2009年春、ネット上で話題が沸騰した採用広告があった。リクルートの転職情報サイト「リクナビNEXT」に掲載された株式会社加藤電機製作所のエンジニア募集広告である。「原君、どこ行ってもうたんや・・・」こんなキャッチコピーで広告は始まる。写真は苦悩する社長の顔だ。広告は社長の独白という形で展開される。5年前に入社した原君は全然仕事をしない。タ42自社の魅力をいかに抽出するか

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