View & Vision No55
45/50

バコを吸いに出たらいつまでたっても職場に戻らない。お願いした図面を1か月かかっても描き上げることができないらしい。「でもね、50過ぎる彼を首にしてしまったら、次に雇ってくれるところはないんじゃないかと思って我慢しています。」という社長のコメントまで掲載されていた。そんな原君も、ハードはだめでもソフトを任せたらピカイチで、根気よく使っていれば長所が見つかると評価されている。さらに、会社のことも、町工場でありながら、シャープなどの大企業から依頼がくる旨が書かれている。「今回も、すごい人は望んでいません。原君よりも仕事ができれば、御の字です。でも、期待はしています。あなたに、うちの会社の将来がかかっているんですから。」というメッセージで締めくくられている。関西の決して有名ではない町工場の求人広告なのだが、Yahoo! のトップニュースを始め、各ネットニュースで取り上げられ話題となった。従業員数が13名の同社に70名を超える応募が殺到したという。笑える話ではあるが、これこそ、小さな町工場の「企業力」を抽出した例と言えるだろう。会社の雰囲気、価値観、強み、トップの人柄、求める人物像などが極めて明確に打ち出されているからである。自社の「独自性」「優位性」を見事に抽出してコンテンツに落とし込んでいると言える。道場の参加者には企業そのものの仕事、組織風土、待遇の魅力を棚卸しし、どれが求職者に響くかを考えてもらっている。このような「なんでもないようなこと」をいかに掘り起こすかが鍵だ。その上で、どのような求職者に届けるかを考えなくてはならない。道場では必ず、求める人物像を絵に描いてもらうことにしている。地方の中堅・中小企業で起こりがちなのは、「体育会系」「スポーツ経験者」などという、アバウトな人物像だ。体育会といっても、様々な種目があるし、大学によってもレベルの差がある。体育会に、競争に強いことを求めるのか、チームワークを期待するのか、上意下達の関係に慣れていることを期待するのかなど、何を期待するかによっても見方は変わる。さらに、このような体育会像自体、2020年代の現在の体育会と大きく乖離している。科学的な手法で戦略立案、チームビルディング、トレーニングを行うのが、現在の体育会だ。このような乖離をなくすためにも、求める人物像を絵に描き、特徴を書き出してもらい、ペルソナ化することによって具体的にする。その上で、抽出した企業の魅力がどのように響くのかを考え、コミュニケーションプランを考える。この自社を知り、求職者を知るというアクションによって、さらに、求職者に寄り添ったプレゼンテーションを練習してもらうことによって、採用力は飛躍的に高まる。歴代受講生の中には、あえて仕事の忙しさを赤裸々にアピールして、これまでを大きく上回る採用実績を実現した水産卸売業、自社の魅力を「企画力」だと定義した流通業など、飛躍的な成果が出ている。このように、商大流の「やってみるという学び方」は採用力向上にも有効だった。具体的に考えること、アクションすること、みんなで知恵を出し合うことがポイントだ。私がお手伝いした『北海道UIターン白書2022』と『いしかわ採強道場』の事例を通じて、地方へのUIターン、地方企業の採用活動について事例紹介と考察を行った。地方創生が何度も叫ばれるが、まだまだ道半ばであり、課題が山積していることをお伝えしたい。新型コロナウイルスショック後、テレワークが推進され、移住が盛んになったかのように伝えられているが、実態は必ずしもそうではない。東京一極集中が何度も批判され問題視されてきたが、一方で何故そのようなことが起こるかというと、東京に集中することに一定の合理性があったからである。そして、メディアで伝えられる牧歌的で、クオリティ・オブ・ライフのレベルが高く、スローな地方での生活は幻想である。前述した転勤廃止などはまだまだ兆しレベルの変化であり、大多数の労働者はその恩恵を得ていない。ただ、これが盛んになると、地方への移住者は増えるものの、現地企業で働く人が増えるわけではないという現象が起こる。今後は、地方都市の魅力を高めること、そこに力強い産業、やりがいのある仕事をつくることが求められる。首都圏に見劣りしない待遇も必要だ。家庭の事情でUIターンをし、今までよりも低い待遇、やりがいのない仕事をせざるを得なくなれば、労働者は救われない。いかに、力強い求人を生み出すか。これこそ、地方自治体と企業が取り組むべきことである。43地方に力強い求人を

元のページ  ../index.html#45

このブックを見る