View & Vision No55
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5713 MWG I/18, S.419-420=前掲『プロ倫』298頁。14 ゲーテ(山下肇訳)『ゲーテ全集 6 ウィルヘルム・マイスターの遍歴時代』人文書院(1962)、360頁。ファウストが時間に向かって「止まれ」と述べてメフィストフェレスに魂を奪われた光景が、国家建設に向けた人びとの労働の姿であったことを想起させる。だがそれは幻想で実はファウストの墓穴を掘っていたのだ。『遍歴時代』で15分刻みの時間を讃えたゲーテは、『ファウスト』では時間と労働に一つの皮肉を見ることになる。15 前掲『聖ベネディクトの戒律』111-112頁。床に就いていた。市民が鐘の告知する時間に合わせて仕事をするようになる過程は、修道士の世俗外禁欲が世俗内へと拡大する過程である。規則正しい生活を送るための修道院の戒律に則った禁欲がその出発点であり、そのシンボルが教会の鐘であった。その後、平信徒の世俗の職業もベルーフ(召命)とされたことで、敬虔なピューリタンは世俗内禁欲へと駆り立てられていった。世俗の信徒も修道士と同様――全信徒が祭司同様だ――生のすべてをかけて神の栄光のために奉仕しなければならない。一瞬たりとも無駄にしてよい時間などありはしない。時間の貴さに関するピューリタンのこの感覚について、ヴェーバーは次のように述べている。(下線は引用者。以下同じ)( 本文)〔バクスターでは〕まだフランクリンのばあいのように「時間は貨幣だ」とは考えられていないけれども、この命題はある程度まで精神的な意味で妥当する。時間がかぎりなく貴いというのは、その失われた時間だけ、神の栄光のために役立つ労働の機会が奪い取られたことになるからだ(原注)。( 原注)バクスター『キリスト教指針』p.79。「つねに時間を大切にし、毎日自分の時間をなくさぬようにもっと注意すれば、あなた方は自分の金銀をなくさぬようになるでしょう。無駄な気晴らしや衣服、御馳走、無駄話、無益な交友、それに睡眠などのどれかがあなた方に誘惑となって時間を奪いそうになったら、よくよく注意しなさい。」―マシュー・ヘンリーも「時間を浪費する者は自分の霊魂を軽んずる者だ」と言っている。……中略……ここでも、プロテスタンティズムの禁欲は、昔から確証された道を歩んでいる。われわれは普通、「時間がない」というのが近代の職業人の特徴だと考えたり、また、たとえば―ゲーテがすでに『遍歴時代』でやっているように―時計00が15分ごとに時刻をうつことで、資本主義の発達程度をはかったりしようとする(ゾンバルトも『近代資本主義』で同様にしている)。―しかし、その場合にもわれわれは、最初に(中世において)0000000mit eingeteilter Zeit生活した人時間を分割して間が修道士000だったということ、そして、教会の鐘ははじめ彼らの000時間分割の必要のために用いたのだということを忘れないようにしたいと思う13。牧会者バクスターとその信徒たちは、「自分の時間」を「なくす」ことが可能な世界に生きていることがうかがえる。現代人と同様、ヴェーバーの時代も「時間がない」と忙しそうに口にし、その口癖が近代職業人の特徴だと思われていたようだ。しかしその15分刻みで駆り立てられる(せわしない)生き方を、ゲーテはむしろ「われわれの道徳律」が要請する思慮深さを保つために必要なことだという。18世紀末の『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』でゲーテは、「昼夜を分かたず」機械仕掛けで15分ごとに音でも周知する時間を讃え、道徳律が要請する「思慮は、時間の分割と刻々の時間に対する注意とによって最高度に促進される。あらゆる瞬間に何事かがなされねばならぬ。もし人が仕事に対すると同時に時間に対して留意しなければ、どうしてそれが実現されよう?」と記した14。ここで表現されたような時間意識に包まれた社会は、ヴェーバーによれば、中世の修道院にはじまった時間分割が世俗内へ転化した延長線上に現れたということになる。もちろん現代人も同じ延長線上を歩んでいるわけである。ここでヴェーバーは、時間を分割する動機の原初形態とそこからの転換を指摘しているのであって、ただ時間分割の起源を述べているのではない。修道士たちが鐘を鳴らしてまで時間を分割したのは、営利や生産性の向上のためではない。『聖ベネディクトの戒律』は述べる。「聖務日課の時間には、合図の鳴るのを聞くや、ただちに従事しているすべての作業を手放し、できる限り急ぎ集合します。……そもそも何事も「神の業」に優先してはなりません15」。あらゆる手の業を「神の業」とし、ひたすら神に奉仕する生活のためにこそ、時間を区切る合図が必要だったのである。修道士にとっての時間分割について、もう少し考えておこう。ヴェーバーは次のように述べている。  重要なのは、修道生活の一般的「精神」が、生活態時間分割と自己統制

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