学長コラム

本学の取り組みや教育活動、学生たちの活躍などの最新情報を中心に、時折、原科学長の研究テーマである参加と合意形成、環境アセスメントに関連した話題もお届けします。

原科幸彦学長

皆さま、こんにちは。
前号に引き続き「学長プロジェクトプラン」についてご説明します。私は学長就任にあたり、4つのテーマで持続可能な社会づくりに全学で対応していくことといたしました。この号では2つ目のテーマである「CSR研究と普及啓発」を取り上げます。
CSRとは、Corporate Social Responsibilityの略称で、日本では「企業の社会的責任」と言われています。CSRは本来、企業の行動様式を環境や社会への影響を配慮したものに変えていくということですが、今日の社会では企業に限らず行政組織の運営や政策形成にもこの考え方を取り入れていくことが重要になっています。そこで、CSRの概念を明確化し、官民を問わず「SR活動」として環境や社会への影響を配慮した事業を展開するという新たな考え方を確立し、広く社会に浸透させることに取り組んでいこうというのが、「CSR研究と普及啓発」がめざすところです。

このテーマは本学の教育の伝統に最も近いものです。本学の前身は1929年の世界恐慌の直前、当時の日本における商業道徳の頽廃を憂いた文学博士の遠藤隆吉先生により創設されました。遠藤博士は、新渡戸稲造氏の唱えた武士道精神の注入を商業道徳教育に求めましたが、武士道精神とは「嘘をつかない」「卑怯なことをしない」「約束を守る」といった日本人の行動基準として機能してきました。その根底には「正しい行いをする」という倫理観があります。本学の教育は商業における倫理観の醸成に始まり、現在は経済活動全般における専門家としての倫理教育へと広がっています。本学の卒業生には会社の社長が多数おり、その数は1300人以上。国内約800大学の上位6%に入ります。この成果は、専門家としてのスキルだけでなく、倫理観を養う本学の教育が、信頼できるビジネス人材を育成してきたことの証だと考えてます。

「CSR研究と普及啓発」は、ビジネスや政策の倫理を問うものですが、環境や社会に対して正しい行いをするということは本学の教育がめざすところと共通しているのです。具体的には3つのサブテーマを設けて、プロジェクトを進めていきます。

サブテーマAは「環境社会配慮の研究」としました。CSRの理念を再整理し、環境社会に配慮したCSRとは何か、その具体的活動は何かを考えていきます。そして、このサブテーマではESG投資も研究の対象とします。これはEnvironment(環境)、Society(社会)、Governance(統治)に配慮している企業やプロジェクトを重視して行う投資のことです。これは環境アセスメントにも関係してきますが、とくにODA、政府や政府関係機関による国際協力活動において行われる大規模開発事業への公的資金の提供などには、環境社会配慮を十分に意識しなくてはなりません。その開発がどんな影響を環境、社会に及ぼすのか、事前予測に基づき、その影響を緩和する対策を講じること、それが非常に重要なのです。巨額の費用が投じられるODAでは、その事業がもたらす環境や社会への影響を正しく判断することが、正しい投資となるわけです。この考え方を社会に普及させることをめざします。

サブテーマBは「環境や社会を考慮したUniversity Ranking」です。大学の社会的責任(University Social Responsibility: USR)を定義し、その観点から大学のあるべき姿を考え、新しい大学評価の指標を開発します。本学からUSRを実践していくことで、USRの国内のみならず世界の大学へと展開していきたいと考えています。

サブテーマCは「エシカル消費の推進」です。これは、人や社会、地球環境を考慮した消費行動を意識していこうというものですが、本学の原点である商業の研究、教育を通じてアピールしていきます。環境、社会に配慮した商品の開発と販売を、教職員とコラボした学生のアクティブラーニングとして実践していくことを計画しています。これによって、まずは学内でエシカル消費の意識を醸成し、将来的な学外展開への土台を築いていきます。