学長コラム

本学の取り組みや教育活動、学生たちの活躍などの最新情報を中心に、時折、原科学長の研究テーマである参加と合意形成、環境アセスメントに関連した話題もお届けします。

皆さま、こんにちは。
さて、本学を運営する学校法人千葉学園は、給付型奨学金の安定的な原資形成等を目的として、2018年5月25日より、日本株式へのESG投資を開始しました。この話題は各メディアでも取り上げられ、ESG投資が次第に社会へ浸透してきたなと感じています。

ESG投資とは?

ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮している企業を選別して行う投資のことです。国連が2006年に責任投資原則(PRI)を採択し、機関投資家に持続可能な社会をめざして責任ある投資をするよう提唱したことから、企業の投資価値を測る新たな尺度としてESGへの配慮は関心を集めています。詳細は割愛しますが、PRI自体は20世紀初めから議論がされてきています。アメリカでは宗教的な観点から、社会にネガティブな影響を与える企業には投資しないなどが行われてきたとも言われています。

PRI、責任ある投資は国連からの提唱ですが、もともとは国際協力の世界がベースです。世界銀行は国連組織の一つですが、国際協力分野の政府開発援助(ODA)として、開発途上国の経済成長のために、お金を融資し、それによって長期的な開発や貧困の削減に貢献してきました。それが徐々に、民間資金によるインフラ整備の投融資も増えてきて、今では、民間による投融資の方が多くなってきました。国際協力分野では環境社会配慮が浸透してきましたから、民間の企業行動もこれにならってODAの環境社会配慮を行い、さらに、企業固有の問題として企業統治も加えられたのではないかと思います。

ESG投資と「まっとうな商い」

ESGとは上述のように持続可能な開発と繋がりが深い概念で、いってみれば、まっとうな商いのことです。それは、社会への影響を考えて行う商いということです。
日本はもともと、周りとの調和を考えて行動する気質や文化があります。ただし、その「周りの範囲」が限られていて、ローカルな地域単位の周りではありましたが、近年はそれが変わり、広がってきました。ある程度の広がり、コミュニティ単位で活動するのであれば、世界は丸くまとまる。だから、鎖国的な考えが評価されています。それは日本だけではなく、トランプ大統領が支持されているのもそういう面があるのではとも思います。

さて、ローカリゼーションを進めていけば、例えば、自然エネルギーも、地域ごとに消費していく方向にベクトルが変わります。生態系には縄張りがあって棲み分けしていますが、人間もそうすれば、生態系の混乱も減るでしょう。それが本来の地球の姿ですが、現在は行き過ぎたグローバリゼーションで、あまり好ましくない状況が生まれてしまいました。そういう問題を何とかしようという、一つの試みがESG投資なのだと思います。本来なら産業活動や生活行動の在り方を変えるのが根本ですが、簡単にはいかないので、まず個々の企業活動を、インパクトを減らす方に変えていく、インパクトアセスメントの概念でみるとそういうことだと思います。環境(E)や社会(S)への影響、企業統治(G)を総合的に配慮するとは、社会への責任のとりかたをフェアにするということです。それは全て商業道徳とつながってきます。ですから、「まっとうな商い」が投資の世界で広まってきたということではないでしょうか。

学園の方針と建学の理念

商業道徳は日本の伝統ですが、基本的には正しい方向を向いていたのです。2003年、エクエーター原則(赤道原則)が始まった年に、ちょうど中国でもアセスメントの仕組みが作られ、環境を積極的に配慮しはじめていました。中国は環境配慮の仕組みを世界の規範に合わせようという意識があり、アセスメント実施数はトップクラスです。それに比べて日本は原発推進という方針で来たため、アセスメントの仕組みが歪められてしまいました。他方、諸外国ではインパクトアセスメントを通じて環境社会配慮が当たり前になり、民間企業も早めに対応してきました。日本の商業道徳からすれば環境社会境配慮は当然なはずですが、国内のアセスメント制度がそうなっておらず不十分であると、社会工学の専門家としては思います。

学園のESG投資は日本株式への投資です。これは日本の社会を変え規範を作るということに貢献します。経営陣も建学の理念と照らして取り組んでいます。大学の使命として学生支援をどうしたらよいかという時に、単に利益を追うのではなく、商業道徳として、まっとうな経営です。今回10億円の投資ですが、もっと奨学金の原資を増やしたい思いです。皆さまにおかれましても、ご寄付をお願いする次第です。
どうぞよろしくお願い申し上げます。

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