学長コラム

本学の取り組みや教育活動、学生たちの活躍などの最新情報を中心に、時折、原科学長の研究テーマである参加と合意形成、環境アセスメントに関連した話題もお届けします。

新入生の皆さんには入学式で、読書の重要性についてお話をしました。大学での学びは自らつかむものですね。そのために重要なのが読書です。5月15日(土)の日本経済新聞、読書欄に私のインタビュー記事が掲載されました。「リーダーの本棚」というものです。ネットでも読めますから、読んでみてください。タイトルは「SDGsに通じる「仁」」で、国連の持続可能な開発目標、SDGsは武士道の仁につながるという内容です。今回は、これを例に読書について書きましょう。

  • 「リーダーの本棚」
    https://style.nikkei.com/article/DGXKZO71880910U1A510C2MY6000?channel=DF120220194798

子供の頃の経験

インタビューに答えているように、私は静岡市で生まれましたが、新聞記者だった父の転勤で、少学2年生から伊予の松山に引っ越し、中学1年が終わるまでの6年間を過ごしました。街の真ん中に松山城を抱く「お城山」があり、その真ん前に住んでいたので、都市に自然があるのが当たり前でした。昆虫採集やチャンバラごっこなどで緑の中を駆け回っていました。草野球もやりました。

松山ではひとつ、鮮烈な記憶があります。1956年、小学4年生になる春、米ニューヨークを皮切りに世界を巡回した有名な写真展「ザ・ファミリー・オブ・マン」(※1)が百貨店で開かれたのです。写真家スタイケンが世界中から家族の写真を集め、結婚や愛、子の誕生、死などから人間像に迫ろうとしていました。映像の力は素晴らしい。衝撃を受けた写真は…、そのことは、日経の「リーダーの本棚」を読んでください。

読書の効用

テレビ放送は、私が中学生になった頃から次第に広がってきたところなので、小学生の頃はラジオで落語や講談をよく聞きました。また、低学年の頃は子供向けのラジオ番組。テレビがない時代なので、野球や相撲の中継もラジオでしたが、これは良い面もあります。映像がなく音声だけで情報が入ると、色々と想像しますね。そういう頭の使い方が発達します。

読書もこれに似ています。文字を読み、頭の中で創造する。挿絵の入った読み物でも文字情報が大半なので、頭での想像力が知らないうちについてゆきます。私も手塚治虫の「鉄腕アトム」や横山光輝の「鉄人28号」など、色々漫画を読みました。漫画や劇画も面白くて良いのですが、それだけでは想像力は付きません。思考がどうしても、絵に引っ張られてしまうからです。文字を沢山読み、想像を巡らせる。このことがとても重要です。これが、読書の楽しみであり、一つの効用です。

時間をかけて

小学校の高学年になると、私は伝記、科学物、芥川龍之介などの文学書とさまざまなものを読んでいました。乱読とも言えます。例えば、よく覚えているものの一つがシュバイツァーの伝記。博愛精神や弱者への視線に心打たれました。でも医者になろうとは思わず、父のような新聞記者になりたくて中学では学生新聞を作っていました。

1960年、中学2年生になる時、松山から福井へ引っ越しましたが、その頃からテレビが全国に広がり、私の憧れの職業に、アナウンサーも加わりました。そうなると、だんだん本を読まなくなってきましたが、じっくりとものを考えるためには本を読むことが、やはり大切です。

学長コラム

これは、人の話をじっくりと聞く、モモと似た態度です。モモはドイツの児童文学作家、ミヒャエル・エンデが1973年に書いた名作『モモ』(※2)の主人公で、小さな女の子です。時間泥棒が出てくる本で、コロナ禍のもと、また沢山の人が読み始めたり、読み直したりしていると聞きます。モモは時間をかけてゆっくりと人の話を聞く。そのように時間をかけてゆっくりと本を読むと、色々なことを想像し、深くものを考えるようになります。試しに何か、本をじっくり読んでみてください。もちろん、『モモ』もお薦めです。

  1. ※1『人間家族:The Family of Man』(エドワード・スタイケン編、冨山房)、(Edward Steichen (1955) The Family of Man. The Museum of Modern Art, New York)
  2. ※2『モモ』(ミヒャエル・エンデ作、大島かおり訳、岩波書店)