学長コラム

本学の取り組みや教育活動、学生たちの活躍などの最新情報を中心に、時折、原科学長の研究テーマである参加と合意形成、環境アセスメントに関連した話題もお届けします。

新型コロナウイルス感染拡大が大分収まってきたようにみえます。本学の活動制限レベルも、11月1日からはレベル2に下げました。これに基づき、授業は対面授業中心となります。このまま推移すれば良いのですが、冬になると再度増えていくのではないかとの危惧もあります。今後も十分、警戒してください。
とはいえ、そろそろコロナ後の社会のあり方について考えることも必要です。

次のパンデミックに備える

この新型コロナウイルスの世界的な感染拡大(パンデミック)のことを、国際的にはCOVID-19と呼びます。coronavirus disease 2019の略称です。このようなパンデミックは将来も発生しうると世界の医療専門家はみています。感染の世界的な爆発的拡大は、グローバリゼーションの進展により、人や物が国境を越えて大量に行き来することになった結果です。そのため、各国で相互の行き来が制限されてきました。

コロナ禍が過ぎれば、国境を越えた行き来は再開されますが、オンラインでの仕事や生活に次第に慣れてきた今日、今後はオンラインも活用したライフスタイルに変わっていくでしょう。オンラインで全てが完結するわけではありませんが、その良い点を生かした行動様式です。その結果、国内での地域間移動はこれまでよりも減ってゆく。これは、次のパンデミックに備えることになります。

生態系から学ぶ

地球上の生物はそれぞれ縄張りをもち、場所ごとに棲み分けをして来ました。棲み分けをして、その場所の気候に適合し、そこで得られる食べ物や巣の材料などを使って生きています。テリトリー内での活動が中心で、域外への移動は限られますが、その結果、疫病のテリトリー外への拡大は抑えられます。風土病と言われるものは、特定の地域だけに限られていました。感染症が発生してもパンデミックは起こりにくい。それにより地球環境が持続してきたと言えます。

18世紀頃までは、棲み分けにより移動が抑えられた結果、生物の多様性が保たれていました。ダーウィンが活躍した19世紀は第一次産業革命の時代で、その当時の生物の多様性は大きかったのです。しかし、その後、数次にわたる産業革命と化石燃料の大量使用により移動手段が飛躍的に発展し、世界がつながることで、疫病も時には急速に拡大してしまうようになりました。

人類も生態系のあり方、棲み分けの良い点を学ぶ必要があるでしょう。しかし、これだけグローバリゼーションが進むと棲み分けだけで生活することはできません。意識的に半鎖国のような考え方で、日常的生活の基本は地域毎に行い、非日常的な活動は地域を行き来するものもあるといった、ハイブリッドの生活体系が新しい形ではないでしょうか。すなわち、このような地域分散型の社会が、コロナ後の世界のあり方ではないかと思われます。具体的にどんな形でしょう。

地域分散型社会:道州制は?

私は、道州制が一つの魅力的な形ではないかと考えています。このことはずっと前から考え、書いてもきました。20年以上も前になりますが、当時の建設省(現在は国土交通省)で国会等の移転が検討されたことがあります。私もその分化会のメンバーでしたが、その時に「首都機能移転は道州制の導入とセットで実現を」と題して私の意見を書きました。2000年2月のことですが、そのウェブサイトは今も残っています。

ここで、私は道州制の利点を列挙しています。地域分権型の道州制で、連邦制のようなものです。例えば、500万人とか1,000万人とかの規模の道州をつくる。権限も財源も、それらの道州に委譲し、連邦政府の役割は外交と国防など限定されます。すると、道州の首都が大都市として成長します。人々は大都市の魅力に魅かれますが、道州都に行けば良い。生活の基本は道州内で完結できる。地域を超えた移動は減って行くが、ゼロではない。

道州内では、基礎自治体である市町村が生活の基本となります。市町村間の移動はオンラインによる活動が増えれば減っていきます。しかし、不便ではない。むしろオンラインも使えることで、活動の広がりは市町村を超え、道州を超え、さらには国を超えた交流もできます。移動の総量は減るが、交流は増える。そんな未来が考えられます。

こうなると、良いことは各道州の競い合いが始まることです。すなわち、社会システムのあり方を競い合う。より優れた社会システムを創り出すためには、どうしたら良いか。良い政府をつくろうと道州が競い合う。そういう未来を考えてみませんか。