教員コラム

政治・経済・IT・国際・環境などさまざまなジャンルの中から、社会の話題や関心の高いトピックについて教員たちがわかりやすく解説します。

IT・デザイン

3Dプリンタには、大まかに分けて次の2つ方式のタイプのものがあります。

  • ABS樹脂やプラスチックを熱で溶かして重ねていく、熱溶解積層方式
  • 硬化樹脂を用いてレーザや紫外線をあてて硬化させる、光造形方式

他にも石膏粉末を使用した粉末固着方式や、従来からある、鉄を削るNC加工方式などもありますが、まだそれほど安価な製品は出ていません。各タイプについて、政策情報学部で使用しているものを関連付けながら紹介していきます。

図1 Cube3Dの運用

熱溶解積層方式は、例えると縄文土器と同じような造形の仕方をしています。縄文土器は、粘土を細長く縒って、それを重ねて行きました。それと同じように、ABS樹脂やプラスチックの素材が、糸のような長いフィラメントで提供されています。それをノズルの付近にある高温に熱っせられた金属で溶かしながらながら、一層ずつ積み重ねて形を作っていきます。この方式は、ノズルを2次元平面上で自由に動かす仕組みを作ってあげれば、後は、徐々に平面を縦方向にずらしていくだけですから、割と安価にプリンタを作ることができます。この方式の製品として、一番解像度の高いMakerBot社のReplicatorシリーズから、かなり安価なRobo3D社のものまで、現在幅広く国内販売されています。政策情報学部で平成25年度予算で購入した製品は、Cubify社のCube 3Dシリーズのものです。これを用いて、いくつかの作品を造形してみました。当然下から上まで1つのフィラメントを使うと、1色の作品になります。途中でフィラメントを交換したら、そこの層から上は交換後の色になりますので、地層のように何色も色分けすることができます。ただし、通常は1色で造形した後から、プラモデルの塗装のように、塗料を塗ることが多いようです。3Dプリンタ製品にもよりますが、だいたい幅10cm×奥行き10cm×高さ20cmぐらいまでの大きさのものが作れます。また、解像度(どれくらい細部まで作れるか)は、0.1~0.2mmぐらいに限られてしまいます。

図2 Form 1の外観(www.formlabs.comより)

光造形方式は、レーザや紫外線を当てるとそこだけ硬化して固形物になる溶剤(アクリルやレジン溶剤など)を用います。これも、積層方式のように、下の層から積み上げていくような形で造形していきます。ただし、細長いフィラメントを溶かしながらという作る造形ではないので、もっと解像度を細かくすることができます。ただし、硬化を起こす樹脂溶剤の扱いなどが面倒な部分があります。また、その分だけ製品の値段も高くなっています。botObjects社のProDesk3DやMillCraft社の製品などがあります。その中でも、平成26年度の予算が通れば、政策情報学部ではFormlabs社のThe Form 1という3Dプリンタを購入する予定にしています。これは、下層から引き上げる形で作品を造形していくプリンタです。解像度は熱溶解積層方式よりも1桁以上細かくて、0.025mm(25μm)となっています。なかなか、光造形の新興メーカーのプリンタは国内での代理販売店が立ち上がるまでに時間が掛かってしまいます。本来は平成25年度予算で購入する予定だったのですが、間に合わず、Cube 3Dを購入したといういきさつがありました。

図3 解像度の違い、右が光造形方式(www.formlabs.comより)
図4 造形用の台座(www.formlabs.comより)

さて、3Dプリンタで出力するときの注意なのですが、ものすごく時間が掛かります。紙に印刷する通常のプリンタは、秒単位あるいは時間が掛かっても分単位で出力が終わります。しかし、3Dプリンタで、たとえば5cm×5cm×10cmの作品を出力(造形)しようと思うと、4時間ぐらい掛かってしまいます。ですから、ネットワークにプリンタを繋ぐことにあまり意味がありません。データを送る速度に対して、プリンタの出力が遅すぎるからです。ネットワークでデータを先に全部送って、プリンタの方でデータを記憶して貰えればいいのですが、結構なデータサイズになりますので、安価なプリンタではサポートしていません。それよりもUSBのフラッシュメモリを差し込んで、その中のファイルを選んで出力する形の方がデータ供給という面では安定しているので、その方式を採用しているプリンタも多いのです。また、積層方式では特に熱溶解方式のものは、一番最下層を安定して出力させるのに、思いの外の苦労が伴います。最初の層がきちんと出力の台(プレート)に粘着するように、接着剤をプレートに敷いておく必要があります。また、最初の層はなるべく大きな平面になるように、台座などを作ってあげる必要があります。図は、Form 1のものですが、下層から引き上げる形になりますので、上下逆になりますが、灰色のような台座も出力して、出力後にそこから切り離すような形になります。プラモデルのランナーからの切り離しと似ています。なお、このような台座なしに、最下層の面積が小さいような作品を出力すると、プレートに固定されなくて、フィラメント方式のものは、おそばみたいなくちゃくちゃなものが出来上がって失敗してしまいます。

図5 数式を用いた造形(www.formlabs.comより)

このような3Dプリンタでどのような作品を造形していくかについてですが、まずこれまで業者に頼まないと3次元の造形物というのは作れませんでした。もちろん、彫刻や金属の打ち出し、彫金や、鉄や木などの素材を組み合わせた造形も可能ではありました。しかし、0.1mm以下の解像度を持つようなものを自分で造形することはできませんでした。プラモデルでは、そのような解像度を持つ作品もありますが、造形の部分は精密な金型を用いた鋳造によるものでしたので、これも個人では扱えませんでした。また、ABS樹脂などを使えば、金属に匹敵するような強度を持つ造形物を出力することも可能になります。そのような特性から、3Dプリンタで作られた銃なども社会的な問題となってきました。しかし、ほとんどの人はそのような用途ではなく、今まで出来なかった個人的な造形を楽しむために3Dプリンタを用いる筈です。また、歯医者さんは3Dプリンタを用いて、義歯を作ることが可能になりました。数式を用いないと造形出来ないような作品も3Dプリンタによって作り出すことが可能となりました。ビジネスの分野でも、実際の製品のプロトタイプ(試作品)やスケールダウン(縮小)したモデルを作り、製品の使用感や特性を確かめるためにも利用されています。

図6 3D Digitizer(www.makerbot.comより)

3Dプリンタに加えて、政策情報学部では、申請した平成26年度予算が通ればの話ですが、3Dスキャナを購入することにしました。図4の製品は、スキャンできる対象の大きさや解像度も限られてしまうのですが、現在国内販売されている製品で、Makerbot社の3D Digitizerというものです。対象物を回転させて、レーザ光を当てて、3次元上の座標値をデータとして読み取るものです。3Dスキャナと3Dプリンタを組み合わせれば、解像度的に満足いくかどうかはわかりませんが、対象物体のコピーができるということになります。様々な可能性を秘めた3Dプリンタを活用するべく、政策情報学部では3次元表現という専門科目が用意されていますし、複数のゼミナールで3次元のモデリングを扱っています。そこでは、出力に備えて平面から構成されるモデルに厚みをつけたり、出力した際に構造的に不具合を起こさないようにモデルを構成することも学びます。

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