教員コラム

政治・経済・IT・国際・環境などさまざまなジャンルの中から、社会の話題や関心の高いトピックについて教員たちがわかりやすく解説します。

地域・暮らし政治・経済・ビジネス

最近盛んな地域おこし、街おこしと地域ブランド

テレビ、新聞などで盛んにB級グルメを利用した地域おこし、街おこしの活動について取り上げたりするなど、いま全国各地で地域ブランド育成への取り組みが始まっています。その背景にはどのようなことがあるのでしょうか。
一般的に指摘されているのは、人口減少や高齢化、財政難などで地域の活力低下に悩む市町村などの自治体の姿があるといわれています。また、地方分権化の進展のもと、市町村合併後の産業振興を模索する地域の動きがあるといわれています。疲弊した地域を再生し、活性化していくためには、持てる地域資源を十分に活かして独自の魅力をつくりだすことが求められており、その切り札のひとつが地域ブランドと考えられています。

そこで最近マスコミ報道で注目を集めた民間組織の提言について簡単に紹介し、日本各地で地域、街の再生・活性化が急務であることからその方策のひとつとして、いかに地域ブランドを構築し育成・確立していくかについて以下で考えていきます。
今年5月、有識者らでつくる政策提言組織の日本創成会議人口減少問題検討分科会(座長 増田寛也元総務相)が『成長を続ける21世紀のために「ストップ少子化・地方元気戦略」』と題する提言を公表しました。この提言は、50ページにわたる内容ですべてを読み通せば我が国が抱えている人口減少問題は待ったなしの状態にあり、この深刻な状況を国民の基本認識として共有し、長期的かつ総合的な視点から、有効な政策を迅速に実施することが求められるとしていることがわかります。
その政策としては、第一の基本目標を国民の希望出生率の実現に置き、国民の希望阻害要因の除去に取り組むこと、第二の基本目標として地方から大都市へ若者が流出する流れを変え、東京一極集中に歯止めをかけることとし、そのための戦略として種々の戦略展開を提言しています。
しかし、マスコミ等では提言のなかで紹介されている若者が東京圏に一極集中する現在の人口移動が続けば2010年と比較して2040年には20~39歳女性人口が半分以下になる自治体が全国の自治体全体の約半数(896自治体)に達し、なかでも人口1万人未満の523の自治体(全自治体の29.1%)では消滅する可能性があるという推計値を取り上げて報道したこともあってかなりの反響を呼びました。人口減少問題は単に市町村のような自治体だけでなく企業や市民にも大きな影響がでてくることが容易に想像できます。

人口減少は、大きな問題といわれますが、より大きな問題は15~64歳の生産年齢人口が減ることです。生産年齢人口が減ることは、自治体にとっては税収が減少することを意味し、また相対的に高齢者に要する医療費等社会福祉関連支出の増加を招き、健全な財政を維持することが困難になることを意味しています。
市民にとっても行政サービスの低下を招き、特に高齢者にとっては受け取る公的年金は働く現役世代が支払う保険料によって賄われるため、保険料を支払っている世代の人口が急減し、年金を受け取る人口が急増すればいずれ公的年金制度は存続が困難になることは容易に想像されます。 企業にとっても自社が対象とする市場が縮小するという事態を招き、経営を維持し、成長していくことが今まで以上に難しくなると想像されます。この中で居住者である市民はもっと市民サービスを手厚く得られる他の自治体に転居することも可能であり、企業も他の地域へ対象市場を拡大していくことによって地元の自治体の人口減少問題に対応することが一応可能と考えられますが、地方自治体は市民や企業と異なり、動くこともできず対応がそれだけ難しいと考えられます。
このため、2000年ころまでの中央政府が大きな政府であった時代においては国からの指示にしたがって補助金等も活用して自治体運営をしていけばよかったわけですが、中央政府が小さい政府を志向するようになったいま、自治体自体が自身で自立していく道を模索することが強く求められるように変わってきたこともあって自治体が主導的に地域ブランドを立ち上げ、育成していくという動きが活発化してきたといわれています。今後ますます地方分権が進めば、その結果として地域のことは地域で考える時代を否応なく迎えることになると想像されます。

地域ブランドとはどのようなものか?

地域ブランドは、企業がマーケティング活動のなかで使っているブランド概念を地域づくりの分野に応用したものと考えられます。企業にとっても自社ブランドの育成・確立は企業競争上、大変重要な要素のひとつと考えられており、企業価値の中に占めるブランドの価値が自社の純資産価値に比べて近年ますます増大してきているといわれるほどその重要性は高まっているといわれています。なぜならば企業にとって強力なブランドを育成していくためには長い時間と多額の投資が必要となるからです。
地域ブランドの定義については、定まったものはないといわれ、それを使う場面や人によってさまざまです。一般的には、地域ブランドは観光ブランド、文化・環境ブランド、特産物ブランドなどの個別ブランドと地域のイメージや価値を象徴的に表し、複数の個別ブランドを束ねるアンブレラ・ブランドと考えられている統合ブランドがあります。
統合ブランドと個別ブランドは上下の階層構造で結ばれ、個別ブランドへの高い評価が、地域イメージを向上させ、統合ブランドの価値を高めていくという関係にあるといえます。このような考え方をとるとすれば、たとえば、全国的に知名度の高い石川県の「加賀友禅」「加賀料理」「加賀蒔絵」「加賀温泉郷」などの個別ブランドとそれをまとめる「加賀ブランド」が統合ブランドといえます。
ここで私のゼミの学生が地域ブランドの販促活動について市役所はじめ関係者の方々に提案させていただいたことのある平成24年からはじまった市川市の「いちかわバラ物語」について触れてみましょう。「いちかわバラ物語」は市川市役所、市川商工会議所、市川パン菓子商工組合の三者の協働で立ち上げられた地域ブランドであり、参加した和菓子店・洋菓子店合計20店舗がそれぞれ独自に最中・洋菓子の皮を市川市民の花であるバラをモチーフにして最中や洋菓子を創作し発売したものです。現時点ではこれは個別ブランドと位置づけられますが将来的には、これを統合ブランド(アンブレラ・ブランド)に格上げして傘下に他の特産物等で「いちかわバラ物語」と名乗る個別のブランドを育成していくことも可能と考えられます。

地域経営の鍵となる地域ブランドの確立

企業であれば消費者に受け入れられるような製品・サービスを市場に提供し続けていかない限り、存続・成長が難しくなりいつかは市場から退場しなければならないということはいうまでもありませんが、年間のGDPをはるかに上回る財政赤字の下で公共事業の縮小、少子高齢化の進展、人口減少、高齢化に伴う医療費等の拡大等厳しさを増していく中で自分たちの住んでいる地域の生活を守っていくためには地域の行政、企業、住民など関係者が協働して収益力の強い地域を作っていくことが求められており、どのように閉塞感を脱し地域に活力を取り戻せるかを考えることが重要になっています。そのためには、これからの地域は国頼みの他力本願ではなく、自律的に生き抜く道を探る姿勢が必要で地域を自ら経営することが求められています。
そこで重要になってくるのは地域経営にマーケティングの発想法を導入することです。マーケティングが「売れる仕組みづくり」といわれるのに対し、ブランドの構築は「売れ続ける仕組みづくり」といわれるようにブランド構築には買い続けてくれる人を作るにはどうすればよいのかを考えていくことになります。早期に地域ブランドを確立していくことために地域の一員である大学ができることを今後も協力してやっていきたいと考えています。

解説者紹介

天野 克彦